コラム
Column
人工ひざ関節置換術の適応時期を解説
このような場合はご検討ください
- 関節の痛みが日常生活に支障をきたす
- 保存療法で改善が見られない
- レントゲン写真で著しい軟骨のすり減りや骨の変形が認められる
手術のタイミングを決めるポイント
患者さんの年齢と全身状態
人工関節は使っているうちに緩みが出たりするので、一定期間(15-20年)で再手術が必要です。つまり、年齢が若いほど再手術の確率は高くなります。ですので、基本的には60歳以上の患者様が対象となります。一方で、高齢の為心臓や肺の昨日が著しく低下している患者様に対しては、手術に耐えられないと判断し、手術を受けることが出来ません。一概には言えませんが、手術を受けるタイミングは一般的に60-90歳位とされています。
生活習慣
喫煙習慣がある場合は術後の呼吸器系の合併症を、重度の糖尿病がある場合は術後感染の合併症を発生する確率が増加します。
これらの問題を改善できない場合は、手術を受けることが出来ません。
患側の関節の状態
以前の記事<なぜお歳を重ねると「ひざ」が痛くなるの？>のように、ひざ関節の軟骨がすり減って骨が露出すると、神経同士が接触して体重をかける度に痛みを感じます。
この状態まで変形が進むと、保存療法(ヒアルロン酸、筋力増強など)だけでは症状の改善が難しいとされています。
変形が進んで骨同士の接触(荷重時)がある状態が手術を受ける目安のタイミングとなります。
事前に知っておこう。人工関節手術の主な後遺症や合併症とその対策
人工関節はひざの痛みを和らげ、日常生活が円滑に行えるというメリットがある一方、非常に稀ですが合併症を発症する可能性があるというデメリットもあります。
感染症
発症率は0.5-3%と言われています。糖尿病や関節リウマチの治療をしている方、ステロイド治療を受けている方は感染を引き起こす可能性が増加すると言われています。
人工関節は普通の状態よりは感染しやすい状態になります。また、感染すると治りにくいため、感染予防を徹底して頂きます。
予防としては手術した部位に傷が入らないようにする、擦り傷、虫歯や風邪にかかった時は出来るだけ早く医療機関で治療しましょう。
血栓塞栓症
人工関節の手術後は「血栓」という血の塊が出来やすくなります。人間の体は心臓がポンプの働きをしています。血液は心臓から動脈を介して足先の組織に送ります。その後、血液は静脈を介して心臓に戻ります。静脈が心臓に戻る際、下肢の筋力が動くことにより、血液が心臓に戻ります。この事からふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれています。
手術の際には麻酔がかかりますので、一定の間下肢の筋力が動かないのでポンプ作用が働かない事、術後下肢が腫脹することなどの条件が合わさって「血栓」という血の塊が出来やすい状態になります。こうなると、下肢の痛みを生じることがあります。ごく稀にこの血栓が血流にのって肺の動脈に到達すると命に関わる合併症(肺塞栓)を生じることがあります(本邦では0.2%と言われています)。
血栓症の予防
- 周術期は「間欠的空気圧迫法を行う(一定のリズムで下肢の筋力を収縮させ、足先の血液を心臓に送り出す(ポンプ作用))(図)
- 血栓症のリスクのある患者様には術後に血栓を溶かす薬剤を投与
を行っています。
出典：西川 寛美ら：深部静脈血栓症(DVT)予防の看護 整形外科看護 Vol.28 No.4, 2023.
金属アレルギー
金属アレルギーがある患者様は金属アレルギー対応の人工関節を選択します。
人工関節のゆるみ
人工関節の術後、長い年月に渡って使用していると、人工関節と骨との間の接着面にゆるみがでて、痛みや歩行障害の症状が出てきます。ゆるみの原因は負荷がかかることです。そのため、適度な体重を保つ、過度な運動は控えるなど心がけてください。
後遺症のリスクを減らすために
経験豊富な医師による手術
一つの目安として、人工関節学会認定医という資格があります。これは「整形外科専門医」の中で、特に人工関節分野における手術経験及び研究業績が豊富な医師を「人工関節学会認定」として氏名を公開しています。
https://jsra.info/public/doctor_search/
術後のリハビリ
術後は理学療法士によるリハビリテーションが重要とされています。リハビリテーションの目的は主に①歩行練習、②可動域訓練、③日常生活動作の獲得です。術後より積極的に行います。日常生活動作が獲得出来るようになれば、退院可能となります。退院の目安は片膝で術後1ヶ月、両膝で1.5ヶ月程度です。
人工関節置換術の手術方法
人工ひざ関節の種類
人工膝関節全置換術
人工関節は関節の滑らかな動きを再現できるように、大腿骨部、脛骨部、膝蓋部の3部分から成り立っています。
大腿骨部、脛骨部は金属製、膝蓋骨の表面と脛骨部の上面は耐久性の優れたポリエチレンで出来ており、これが軟骨の代わりとなります。
出典：龍 啓之助ら：人工膝関節全置換術 整形外科看護 Vol.25 No.4, 2020.)
人工膝関節部分置換術
人工関節はお皿の部分など膝関節の一部を人工関節に置き換える部分置換術という手術方法もあります。
軟骨の摩耗が限定的である事、その部位由来の疼痛と判断できる事が選択の条件となります。
出典：龍 啓之助ら：人工膝関節全置換術 整形外科看護 Vol.25 No.4, 2020.)
▼あわせて読む
人工関節置換術のQ&A
一般的には85歳程度までは手術可能と考えられています。
心臓や肺、その他の臓器の状態を考慮して手術可能かどうかを決定します。ですので、90歳以上の方でも全身状態が良好と判断されれば、手術を受けることは可能です。本邦の人工ひざ関節全置換術を受けられる患者様の平均年齢は73.0歳です。(社会保険庁2008年データ)
患者様のひざの変形の程度にもよりますが、手術時間は約60-90分です。手術室への入室から病棟に戻るまでの時間の目安は概ね2-3時間となります
手術翌日から全ての体重をかけた状態での歩行練習を開始します。歩行練習は理学療法士と共に行います。術後のリハビリテーションの内容は主に①歩行練習、②可動域訓練、③日常生活動作の獲得です。これらの目標が達成できれば退院可能となります。退院の目安は片膝で術後1ヶ月、両膝で1.5ヶ月程度です。
耐用年数は一般的に15-20年程度と言われています。手術後20年が経過した段階で6人に1人程度と報告されています。ただし、関節の変形の程度、活動性が高いかどうかなどにも影響を受けます。動きの激しいスポーツや禁じられている動作を行なったりすると、人工関節の緩みや摩耗が出やすくなり、耐用年数は短くなってしまいます。ですので、出来るだけ長持ちさせられるように気をつけていただくことが大切です。
前述のように、動きの激しいスポーツを行うと、早期に緩む危険性があります。
キーワードは①衝撃が少ないこと、②手術前に経験していた 運動が許可されています。
○ 行なっても良いスポーツ
サイクリング(屋内固定型)、ボウリング、ゴルフ、ダンス、乗馬、クロケット、ウォーキング、水泳、射撃
✖️ 行ってはいけないスポーツ
ロッククライミング、サッカー、テニス(シングル)、バレーボール、フットボール、ホッケー、バスケットボール、ジョギング、ハンドボール
まとめ
人工ひざ関節のメリットは①痛みを和らげること、②日常生活が簡単に行えるようになることです。
一方で、非常に稀ですが合併症も存在します。手術が問題なく進めば、大きな効果を実感して頂けると思います。重要なことは経験豊富な医師が手術適応を見極め、安全に手術を行うことです。
ひざの変形や痛みの程度によって鎮痛薬の内服、ヒアルロン酸注射、リハビリテーション、再生医療(PRPなど)、人工関節とそれぞれの効果を発揮する状況は異なります。ひざの痛みでお困りの際は気軽にご相談してください。
参考文献
・Mullins MM et al. Thirty-year results of a prospective study of Charnley total hip arthroplasty by the posterior approach. J Arthroplasty 2007: 22(6): 833-9
・Adbel MP et al. Effect of postoperative mechanical axis alignment on survival and functional outcomes of modern total knee arthroplasties with cement. J Bone Joint Surg Am 2018:100:472-8
・三浦裕正 緒方淳也 松田秀一 岡崎 賢 岩本幸英：人工関節置換術後のスポーツ活動関節外科Vol.25 10月増刊号 2006
・稲垣克記：人工肘関節のデザインと術後のスポーツ運動 関節外科Vol.31 第11月 2012
・西川 寛美ら : 深部静脈血栓症(DVT)予防の看護 整形外科看護 Vol.28 No.4, 2023.
・龍 啓之助ら : 人工膝関節全置換術 整形外科看護 Vol.25 No.4, 2020
06-4392-7077