コラム
Column
腰痛の症状・原因は? 腰の痛みを招くさまざまな要因。花粉症との関係は?
こんにちは、臼井です。今回は腰痛についてお話します。
腰痛をこれまで感じたことのある方はどれほどいるでしょうか?
厚生労働省の統計『平成28年国民生活基礎調査』世帯員の健康状況・性別にみた有訴者(病気や怪我等で自覚症状のある者)率の上位症状によると、男性の1位が腰痛、女性は肩こりに次いで2位が腰痛との結果となっています。
腰痛が発症しやすい時期や季節は、個人やその生活環境によって異なりますが、春先は気温の変化が激しく、気圧の変動や花粉症などのアレルギー症状が腰痛を悪化させることがあります。
正しくは腰痛と花粉症の関係について、直接的な因果関係はありませんが、間接的な影響がある可能性があります。
花粉症の症状による睡眠障害や睡眠の質の低下がある場合、睡眠不足や睡眠の質の低下が筋肉の疲労や緊張を増加させたり、ストレスや不快感が蓄積することで、同様に身体全体の緊張やストレス反応が増加したりするため、腰痛を引き起こす可能性があります。
また、春は運動を始める人が増える時期でもあり、急激な運動不足からの運動量増加によって腰に負担がかかりやすくなることもあります。
これらを踏まえて、腰痛とは?腰痛の要因とその治療、改善についてご案内します。
腰痛とは
腰痛とは、腰部に発生する不快な感覚のことです。「腰痛」は病気の名前ではありません。
腰部を主とした痛みや張り感などの症状をまとめて「腰痛」と呼びます。
一時的な腰痛もあれば慢性的な腰痛もあります。また、腰に原因がない腰痛もあるのです。年齢を重ねることで起こるものもありますが、その多くが原因不明とされるケースが多いのです。
腰痛の種類と原因
腰痛は大きく分けて特異性腰痛と非特異性腰痛に分類されます。特異性腰痛は特定の病変や疾患によって引き起こされるものであり、一方、非特異性腰痛は具体的な原因が特定しづらいものです。
非特異性腰痛の割合は腰痛全体の85%にも上ると言われています。
〇特異性腰痛
骨粗しょう症
転倒や軽微な外傷などで引き起こされます(明らかな受傷機転がなくても腰椎圧迫骨折が起きる場合があります(いつの間にか骨折))。
【痛みの特徴や注意事項】
骨粗鬆症は「骨密度が低下して骨折の危険性が高い状態」とされています。
骨粗鬆症の最大の合併症は骨折です。特に腰椎圧迫骨折は60歳代から発生率が増加し、これらは連鎖的に起こります(骨折の連鎖)。
さらに、骨粗鬆症による腰椎の圧迫骨折は「いつの間にか骨折」とも呼ばれ、腰痛など症状を伴わない場合もあります。
また、骨粗鬆症性骨折を起こした人は、起こしていない人に比べて生涯にわたり再骨折のリスクが高いですが、骨折直後が最も高くなります。また、腰椎圧迫骨折が発生すると寝たきりの原因となるだけでなく、生命予後を悪化させます。
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腰椎椎間板ヘルニア
【痛みの特徴や注意事項】
痛みの特徴は、腰痛と下肢の疼痛が共に発生することです。
通常、腰痛が先行して引き続き下肢つうが発生します。症状が強い場合、歩行障害や尿や便が出にくいなどの症状(膀胱直腸障害)を伴うこともあります。
症状が3ヶ月以上続く場合、重度の運動障害、膀胱直腸障害(尿や便が出にくい)がある場合は手術する方が予後が良いと言われおり、注意が必要です。
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椎間関節性腰痛
椎間関節性腰痛は、背骨の後方で上下の背骨を繋ぐ椎間関節に起こる痛みです。この痛みは、椎間関節の炎症や運動制限によって引き起こされます。
【痛みの特徴や注意事項】
慢性腰痛の患者さんの中で、椎間関節が原因となるものの頻度は15-52%と言われており、かなりの割合で存在します。
椎間板性腰痛
椎間板性腰痛は、スポーツや加齢に伴う椎間板の変性・損傷により生じる腰の痛みです。椎間板内部に神経が分布することで痛みが生じます。
【痛みの特徴や注意事項】
椎間板は中心部にあるゲル状の髄核と、これを取り巻く繊維輪、及び椎体に接する部分を覆う軟骨終板からなります(図1)。椎間板は、椎体を連結し、衝撃を吸収することで脊柱のしなやかさと支持性を保っています。
図1:腰椎の構造
出典:折田 純久ら 現代における慢性腰痛:
神経障害性疼痛と椎間板性腰痛の関与 日本運動器疼痛学会誌 : 117-127, 2020.
椎間板の髄核は加齢に伴い水分が減少し、衝撃吸収が出来なくなります。また前屈みの姿勢で大きな荷重がかかってしまうことが知られています。
痛みの特徴は、座る姿勢や前屈みで増強する腰臀部痛です。時に鼠径部に放散痛が出現することもあります。ですので、座る姿勢を正すことが重要となってきます。
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筋筋膜性腰痛
筋筋膜性腰痛は、腰の筋肉や筋膜への急激な負荷によって引き起こされます。不良姿勢や長期間の負荷が原因となります。
【痛みの特徴や注意事項】
体幹の過伸展、屈曲、回旋、中腰の姿勢からの腰の捻り、前傾姿勢の保持、着時時の衝撃など、各種スポーツ中や日常に起こりうる腰に負担のかかる様々な激しい運動で発生します。
発症時、“魔女の一撃”と言われるような非常に強い疼痛を腰部に生じ、身体を動かすことが非常に困難になりますうが、足の痺れといった症状は基本的に認めません。
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非特異的腰痛
慢性的に腰痛のある方やぎっくり腰を繰り返す方など、厳密な原因が特定できない腰痛を非特異的腰痛と言います。腰痛患者の85%はこのような原因が特定できない腰痛と言われています。
- がんなど、脊椎の疾患が原因の腰痛
- 内臓の病気が原因の腰痛
- ストレスが原因の心因性腰痛
女性特有の腰痛
女性特有の腰痛として以下のようなものがあります:
- 月経前症候群(PMS)による腰痛
- 妊娠に伴う腰痛
- 産後の腰痛
- 更年期における腰痛
これらの女性特有の状況によって、腰痛が引き起こされることがあります。そのため、妊娠中や更年期など、特定の生理的状況下での腰痛に対する適切な対処法や管理が必要です。
腰痛の診断
腰痛は主に、レントゲン撮影により診断します。
腰痛でのレントゲン撮影は、腰痛のRed flagsと呼ばれる危険信号がある場合に行われます。これらの危険信号には、若年または高齢での発症、活動に関係ない持続的な痛み、癌や感染症の既往歴などが含まれます。これらの症状がある場合は、重篤な脊柱疾患の合併を疑います。
腰痛の治療方法
投薬治療
薬物療法は、痛みや炎症の緩和に効果的です。
疾患の種類や急性腰痛か慢性腰痛かの違いにもよりますが、以下の薬剤を選択します。
非ステロイド性抗炎症薬、アセトアミノフェン、トラマドール塩酸塩、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬など
非ステロイド性抗炎症薬は副作用でしばしば問題になるのが、消化性潰瘍とアスピリン喘息、腎機能障害です。当院では、副作用に注意して、短期間の処方、最小限の用量の処方を心がけています。また、必要に応じて血液検査による腎機能障害の確認を行います。
注射治療
局所的な痛みを和らげるために、注射治療が行われる場合があります。
当院では超音波ガイド下に注射を行います。
痛みは神経活動であり、腰臀部痛には末梢神経が深く関与します。超音波ガイド下注射(図2)では、末梢神経に対する正確な注射が可能であり、徐痛効果からの病態把握がより正確です。
使用する薬剤は①局所麻酔薬②局所麻酔薬とステロイドの混合液③生理食塩水の3種類です。
生理食塩水は、末梢神経を標的とした超音波ガイド下ハイドロリリースで使用します。
図2:超音波ハイドロリリースの実際
出典:皆川 洋至ら 腰臀部痛に対する超音波ガイド下注射 J. Spine Res. 13 : 851-859, 2022.
超音波ガイド下ハイドロリリースとは?
神経の外膜へ薬効のない生理食塩水を注入する手技の事で、薬剤による副作用がありません。
通常、局所麻酔薬の効果発現までに数分要しますが、注射直後の徐痛効果はハイドロリリース効果です。
物理療法
物理療法は、牽引療法や温熱療法などを用いて症状の改善を図ります。
装具療法
装具を用いて、姿勢のサポートや安定性を高めることができます。
理学療法(リハビリ)
リハビリテーショョンプログラムは、筋力や柔軟性を向上させ、正しい姿勢や日常生活動作の改善を促進します。
腰椎椎間板ヘルニアや椎間板性腰痛の場合、椎間板への負担を極力減らすことが重要と考えられます。図3のように、姿勢と椎間板の関係では、臥位<立位<座位,直立位<前屈位で椎間板への圧力は高くなります。
一方で、腰部脊柱管狭窄症の場合、伸展動作(のけぞる動き)にて硬膜外圧が増加すると言われていますし、椎間関節による疼痛では、回旋運動にてストレスが加わることが知られています。
ですので、リハビリプログラムは基本的な姿勢を正すこと(柔軟性や筋力up)に加え、ストレスのかかる運動を控える事も大切です。
運動によりどのように疼痛が出現するのか、改善するのかを確認し、適切な姿勢や運動方向の指導を実施するべきです。
図3:姿勢と椎間板内圧の関係
出典: 遠藤 達也ら 腰痛に対するリハビリテーション MB Orthop. 36(9) : 90-101, 2023.
姿勢を改善しよう
姿勢と腰痛の関係は密接です。正しい姿勢を保つことは、腰痛の予防や軽減に非常に重要です。正しい姿勢は、脊柱のバランスを保ち、腰部の負担を軽減します。適切な姿勢を維持することで、腰部の筋肉や椎間板にかかる負荷が均等に分散され、腰痛のリスクが低減します。
姿勢が悪くなると、脊柱の自然なカーブが乱れ、腰椎に不必要な負荷がかかることがあります。例えば、前かがみの姿勢や猫背などは、腰椎や周囲の筋肉に過度のストレスを与え、腰痛を引き起こす可能性があります。
また、筋肉のバランスが悪いと、腰痛が発生しやすくなります。例えば、腹部や背部の筋肉が弱い場合、腰椎を支える力が不足し、腰部の負担が増加します。また、座位や立位での長時間の姿勢が続くと、筋肉の疲労や張りが生じ、腰痛を引き起こすことがあります。
正しい姿勢を維持するための運動やストレッチ、姿勢矯正器具の使用などは、腰痛の改善に有効です。また、デスクワークなどで長時間同じ姿勢を保つ場合には、定期的な姿勢の変更やストレッチ、休憩を取ることも重要です。
ストレッチングと体幹の筋力トレーニング
ストレッチングと体幹の筋力トレーニングを継続的に行うことで、腰部の筋肉を強化し、腰痛のリスクを低減することができます。
以下にストレッチングと体幹の筋力トレーニングについて説明します。
ストレッチング
ストレッチングは、軟部組織の拘縮を取り除き、腰椎全体の可動域を改善させるために重要です。
特に、腰痛をお持ちの患者さんは、体幹・下肢の拘縮が少なからず存在します。
ストレッチングのポイントは
- ゆっくり息を吐きながら行うこと(1動作を10秒以上かけて5秒間保持すること/1日3セット目安)
- 決して無理をせず、痛みや不快感が生じたらストップすること
です。以下に例を示します。
背筋筋力増強とストレッチングの同時トレーニング
(左:吸気に合わせて3秒壁をゆっくり押す。これが背筋筋力訓練になります。)
(右:その後呼気に合わせて、ゆっくりと可能な範囲で前屈します。これが背筋ストレッチング運動になります。)
まとめ
今回は、腰痛について特異性と非特異性の両方を含めた種類やその原因、そして治療方法について紹介しました。腰痛は生活に支障をきたすほど深刻な問題となることがありますが、早期の治療や適切なケアによって改善することが可能です。
当院では、患者の個々の症状や生活スタイルに合わせた総合的なアプローチで治療を行っています。腰痛でお悩みの方は、どのような些細なお悩みでも構いません。早めの受診が、より早い回復につながります。お気軽にご相談ください。
JR桃谷駅西口出てすぐの天王寺区、生野区から通院しやすいクリニック「桃谷うすい整形外科」では、質の高い医療を提供し、患者さんの問題解決に全力で取り組み、医療者全員が協力して前進し続けることを目指しています。
参考文献
折田 純久ら:現代における慢性腰痛:神経障害性疼痛と椎間板性腰痛の関与 日本運動器疼痛学会誌 : 117-127, 2020.
金谷 幸一ら : 骨粗鬆症のキホン 原因と診断 整形外科看護 Vol.28 No.12, 2023.
遠藤 達也ら:腰痛に対するリハビリテーション MB Orthop. 36(9) : 90-101, 2023.
皆川 洋至ら:腰臀部痛に対する超音波ガイド下注射 J. Spine Res. 13 : 851-859, 2022.