脊椎圧迫骨折
脊椎圧迫骨折
脊椎圧迫骨折とは
圧迫骨折は通常、尻餅をついた時や、重いものを無理に持ち上げようとして背骨に過度の負荷がかかって、椎体が骨折することです。
しかし高齢者では、受傷機転がはっきりせずに生じる場合もあります。圧迫骨折は骨粗しょう症のある高齢者に起こりやすいです。
骨粗鬆症による骨折の場合には、明らかな外傷のきっかけのない「いつの間にか骨折」の形で生じます。徐々に背中が丸くなる、身長が低くなる等の症状によってレントゲン検査をすると、偶然圧迫骨折が発見されるといった経緯も多く散見されます。
患者さんの特徴としては、高齢の特に女性やステロイド剤を長期に使用する病気の患者さんに多くみられます。
骨粗しょう症とは
通常よりも骨の量が減少し、さらに骨の質が劣化したものです。 いわゆる骨に「鬆(す)」が入った状態であり、普通の骨に比べて荷重に耐える強度が低下しています(図)
図:加齢による海面骨と皮質骨の変化
出典:金谷 幸一ら : 骨粗鬆症のキホン 原因と診断 整形外科看護 Vol.28 No.12, 2023.)
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脊椎圧迫骨折の原因
前述のように骨の強度が低下する=骨粗しょう症が背景にあり、転倒などが原因となることが非常に多いです。
脊椎圧迫骨折の症状
圧迫骨折を生じた場合には、腰痛や背部痛が出現することが多く、転倒などの受傷機転を契機に急激に発症します。痛みの部位は、圧迫骨折がよく生じる胸腰椎移行部の後方のこともあれば、骨折部より斜め下の左右の腸骨稜後面のあたりのこともあります。
また、慢性の軽い腰痛から数ヶ月後に腰痛が増強し、時に下肢のしびれ・麻痺を生じることがあります。そのような場合には、圧迫骨折から遅発性の破裂骨折への移行を疑い、精査します。
圧迫骨折を繰り返して、何ヵ所も骨折が生じると円背や亀背といった脊椎の後弯変形(背中が曲がること)をきたし、身長が低下します。このような状態では活動性が低下し、逆流性食道炎などの消化器症状をきたすこともあります。
脊椎圧迫骨折の検査
まず尻餅をついたなどの外傷のエピソードがあるかどうか、痛みが急性に生じたものかどうかを確認します。
また、折れた椎骨後方の棘突起を叩いて痛いかどうか(叩打痛)があるかどうかも確認します。
単純X線(レントゲン)をして、骨(椎体)の変形を確認します。最も多いのは前方の椎体が潰れる変形です。中には通常のX線では捉えられない骨折もあるので、立位( or 坐位)と臥位で撮影して、その椎体形状の変化を観察します。(図)
図:圧迫骨折 臥位→坐位で椎体が潰れている様子
X線では圧迫骨折が捉えられず、MRIを撮影して初めて信号変化を捉えることが出来る場合もあります。
図:MRI 正常/圧迫骨折
出典:金山 雅弘ら : 脊椎圧迫骨折 整形外科看護 Vol.21 No.4, 2016.
脊椎圧迫骨折の治療
診断がついたら痛みや骨折の程度に応じて、安静の指導や鎮痛薬の処方、外固定を行います。
安静臥床は筋肉の萎縮を進行させるので、長くても2週間までとします。硬性コルセットを装着し、徐々に生活レベルを上げながら活動するようにします。装具療法開始後6ヶ月で日常生活に問題ないようであれば治療を終了します。
しかし、神経症状(麻痺や排尿障害)が続く場合には、手術治療を検討します。また、骨粗しょう症は全身疾患のため、骨粗しょう症自体の治療が重要です。
骨粗しょう症に対する薬物治療
非ステロイド性消炎鎮痛剤などを使用します。また、骨粗鬆症が背景にある患者さんに対して、骨粗鬆症治療を導入することをお勧めします。詳しい治療内容は、血液検査や骨密度の値を考慮して決定します。
リハビリテーション
安静期間と歩行訓練期間に分けて考えます。
安静期間では、股関節周囲(腸腰筋、大腿四頭筋、内転筋群、外転筋群)、足関節周囲の筋力訓練・関節可動域訓練を行います。
歩行訓練期では、まず脊椎全体に体重や前屈の加えない伸展運動を中心としたものが安全です。脊柱全体の可動性を高めるとともに、腹筋、背筋の筋力増強を図ることが推奨されています。歩行訓練では、まず平行棒で歩行が安定しているか確認しながら、安定した自立歩行ができるようにトレーニングしていきます。
手術療法
以下の3つを満たし、全身状態が良好、元々の日常活動性が高い場合は手術を考慮します。
- 保存治療中に椎体の圧壊をきたし、遅発神経麻痺を呈する場合
- 進行性の後弯変形で強い腰背部痛と伴う
- 重心前方偏位により立位、歩行が困難
手術の際は提携医療機関に紹介させていただきます。
当院での治療方針
原因となる骨粗しょう症の精査・治療を行うことが大切と考えています。
- 精査:骨密度測定(大腿骨・腰椎)、血液検査(骨が破壊される値、骨が形成される値など測定)を行います。
- 治療:精査の結果を元に患者さんそれぞれの年齢と骨の新陳代謝の状態に沿った薬剤選択を行います。
脊椎圧迫骨折の予防
すでに発症した骨粗しょう症では、骨塩量がさらに低下しないように治療することが必要であり、歩行を中心とした運動と薬物療法が必須となります。高齢になってからの骨塩量増量には限界があるため、若い頃から骨粗鬆症にならないように予防することが大切です。
40歳以上の女性、50才以上の男性は出来るだけ骨密度の検査(大腿骨、腰椎)を受けることをお勧めします。また、圧迫骨折は転倒で生じることが多いので、転倒予防も重要です。
いずれにしろ、若い時からバランスの良い食事を取り、適度に運動して骨塩量を備蓄するとともに、閉経以後の骨塩量減少には適度な運動と薬物療法が対応策となります。
医師より
圧迫骨折は骨粗しょう症のある高齢女性によく起こります。そのため局所の骨折だけにとらわれずに、その元にある骨粗鬆症に目を向けることが重要です。骨粗しょう症は全身疾患であり、複数の骨折がある患者さんでは再び骨折を生じる確率が極めて高くなります。また、骨折数が多ければ多いほど、加速度的に再骨折の危険性が高まります。
さらに、健常者に比べて圧迫骨折のある患者さんの死亡相対リスクは高く、寿命が低下する疾患でもあります。
参考文献
湯川 泰紹ら : 脊椎圧迫骨折 整形外科看護 Vol.22 No.4, 2017.
金谷 幸一ら : 骨粗鬆症のキホン 原因と診断 整形外科看護 Vol.28 No.12, 2023.
金山 雅弘ら : 脊椎圧迫骨折 整形外科看護 Vol.21 No.4, 2016.
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骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015 年版.東京,ライフサイエンス出版,2015.
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