肩関節周囲炎(五十肩)
肩関節周囲炎(五十肩)
肩関節周囲炎(五十肩)とは
五十肩は医学的には「かぜ」と同じく症候群とされ、その定義は“中高年期に後発する、肩関節周囲炎をきたす疾患”です。
肩関節周囲炎をきたす疾患、つまり、肩関節拘縮、腱板断裂、石灰沈着性腱板炎、頸椎症性神経根症も五十肩に含まれます。
厳密には、五十肩は凍結肩(肩関節周囲炎、肩関節拘縮)のことを言います。
凍結肩とは、肩甲上腕関節で滑膜炎が発生し、その結果肩関節に疼痛が生じている状態です。さらに関節包の短縮が原因で生じる上司挙上時の骨頭上方移動に伴う二次的な腱峰下インピンジメントが合併したり、疼痛による不動後の筋肉の拘縮、さらに高齢者では筋肉減少が生じて、関節包外の要素も絡んだりしていきます。
肩関節周囲炎(五十肩)の原因
凍結肩は明らかな原因が特定されておりません。また、糖尿病や甲状腺疾患との関連が指摘されております。凍結肩患者の30%に耐糖能異常がみられたとの報告があります。
肩関節周囲炎(五十肩)の症状
病期に応じてさまざまな症状が現れます。
凍結肩の病期
凍結肩の病期は一般的に炎症期、拘縮期、回復期の3つに分けられます。
炎症期
炎症期は、滑膜炎に起因する疼痛が非常に強い時期で、結髪、結滞動作などにおける運動時の痛みはもちろん、安静時における疼痛、特に夜間に寝返りを打った際に下になった方の肩が疼いて眠れないなどの訴えが多いです。痛みが強いため、関節可動域制限も著名です。
拘縮期
拘縮期では炎症が消退していくので疼痛は徐々に落ち着いていきますが、関節包の繊維化や短縮が残存しています。可動域制限と、可動域の最終域付近での疼痛の症状が継続します。
回復期
回復期では炎症が消失し、次第に可動域制限も軽減していきます。
この時期に入ると治療の必要はなく、日常生活動作を続けていくことで十分な回復が期待できます。しかし、5%の患者さんに強い痛みや機能障害が残るため、注意が必要です。
検査
一般的には特徴的な身体所見と、レントゲン検査によって診断されますが、当院では超音波検査を利用して病態を詳細に評価します。腱板断裂を疑う場合は近隣の連携施設でMRI検査を受けて頂きます。
治療
前述の通り、凍結肩の病態は、肩甲上腕関節の滑膜炎です。
つまり、凍結肩の治療は滑膜炎に対する治療と、その後の拘縮に対する治療です。
1.薬剤投与
治療が必要な病気は、主として炎症期と拘縮期です。
時に炎症期は肩甲上腕関節の滑膜炎を鎮火させる治療を行います。
消炎鎮痛剤(ステロイド含む)や、夜間痛が強い場合には精神安定剤の内服治療も効果があります。
また、エコーを用いて局所麻酔を少量混入したステロイド注射やヒアルロン酸注射の肩甲上腕関節に局所投与を行います。2次的に肩峰下インピンジメントが生じている場合は、GH関節と肩峰下滑液包両方に注射を打つと効果的です。
2.理学療法士によるリハビリテーション
早期の場合は、炎症を伴うような激しい理学療法は避けるべきであります。
疼痛が誘発されることを患者さんが恐れるあまり、筋緊張が助長されるという悪循環が起こる可能性があります。ですので、肩関節の筋緊張を緩めるようなリラクゼーション、マッサージなどのmildなリハビリテーションに止めるべきです。
RO改善を目的とした積極的なリハビリテーションは、炎症が軽減した拘縮期に入ってから行うようにしています。
回復期に入ると積極的なROM訓練で可動域の改善を図るとともに、更衣、結髪、結滞動作などの日常生活ができるようになるために実践訓練を行っていきます。
3.サイレントマニュピュレーション
上記の治療で疼痛が改善しない場合に、サイレントマニュピュレーションや鏡視下肩関節受動術を検討します。
サイレントマニュピュレーションとは、首からブロック注射を行って上肢に対して麻酔を行い、肩関節をさまざまな方向に多動的に動かすことで、関節包を破綻させてROM改善する方法のことです。この方法は入院の必要がなく、感染リスクもない上、費用も手術治療と比較して安価であり、患者側のデメリットが少ないです。
合併症:上腕骨骨折や腕神経叢損傷、腱板断裂
65才以上の高齢女性に対しては、肩甲骨関節か骨折や上腕骨骨折のリスクがあるため、行いません。
参考文献
・Lequesens M, et al : Increased association of diabetes mellitus with capsulitis of the shoulder and shoulder-hand syndrome. Scand J Rheumatol, 6 (1) : 53-56, 1977
・Sasanuma H, et al : Characteristics of dynamic magnetic resonance imaging of idiopathic severe frozen shoulder. J Shoulder Elbow Surg, 26 (2) : e52-7, 2017
・横矢 晋ら. 実践サイレント・マニュピュレーション-五十肩症候群の新しい治療法. 日本医事速報. 5084, p18-30. 2021.
五十肩は病期に応じて治療方法が異なります。
急性期に過度なリハビリテーションによって、かえって症状を悪化させる事があります。
重要なのは、病期に合わせた沿療を行うことと、医師と理学療法士が連携をとって治療を行うことです。
肩を動かしにくい、肩が痛い(夜間痛)などの症状があったら、お気軽に受診してください。