大腿骨頸部骨折
大腿骨頸部骨折
大腿骨頸部骨折とは
20-30代の方が、バイクや車で転倒した場合、大腿骨下部の骨が折れることが多いものです。
しかし、高齢者になると、大腿骨の頸部を骨折すること増えます。これを一般的に大腿骨頸部骨折と言います。
日本では年間15万人以上が罹患していると言われています。高齢化に伴い増えてきており、20年前と比べると2倍以上になっています。
大腿骨頸部骨折の原因
主な原因は立った状態から転ぶことで、全体の8割を占めます。
なぜ高齢者が大腿骨の頸部を骨折しやすいかというと、年齢を重ねるにつれ、骨が脆くなるからです。
図のように、大腿骨頚部には角度がついています。
この角度がついた骨の上に、骨盤や脊椎、肋骨などが乗っています。
また、立つ際には大腿骨頸部に体重がかかり、その上で片足ずつ動かさなければなりませんので負荷がかかりやすくなります。
大腿骨頸部は、遠くに細くなっているため、折れやすくもあると言えるでしょう。
大腿骨頸部骨折は80才以上の人が圧倒的に多いでのですが、70才以上になると注意が必要です。それは一般的に骨粗鬆症が急激に進行しているためです。
骨粗鬆症は、女性と男性で異なった経過で進行します。
女性は、閉経を迎えると女性ホルモンが分泌されなくなります。女性ホルモンは骨を丈夫にする作用があるのですが、それが作用しなくなります。
男性は、75歳以上になると腸からカルシウムを吸収する能力が落ちていくのです。それで骨が脆くなると言われています。
大腿骨頸部骨折の症状
転んだ直後から足の付け根に強い痛みがあります。痛みのため、立ったり歩いたりすることが難しくなり、寝たきりとなってしまいます。しかし、骨折型によって骨同士が噛み込み、症状を訴えない患者さんがいますので、注意が必要です。
大腿骨頸部骨折の検査
通常単純レントゲン検査にて診断を行い、CT検査にて骨折型を確認します。(図)
しかし、レントゲン検査では同定できず、MRI検査でのみ同定出来るといった不顕性骨折もあるので注意が必要です。
当院では、転倒などのエピソードに加えて股関節痛の症状が強く、レントゲン検査にて骨折線が同定できない場合に限ってMRI検査を勧めます。
大腿骨頸部骨折の治療
治療の原則は手術治療です。保存治療では半年の死亡率は50%以上であり、手術では1年以内の死亡率は10%前後と言われています。
骨というのは安静ししていればくっついていきますが、大腿骨頸部骨折の場合は完治するまで1年くらいかかります。
高齢者が1年も安静にしていたら、寝たきりになってしまいます。寝たきりの期間が長いと、合併症として認知症、肺炎、尿路感染症、褥瘡などが発生します。ですから、一刻も早く手術し、早期復帰を目指すことが最も重要です。
また、骨折の重症度により、骨接合 or 人工関節置換術を決定します。手術は、受傷から48時間以内を目標に行い、早期離床を図ります。これは骨折後に長期臥床になると、合併症(肺炎、褥瘡など)が増えるためです。
大腿骨頸部骨折の予防
ところで、国際宇宙ステーションに行くと、骨が脆くなると言われていますが、骨というのは重力がかかっている方が、それに抵抗しようとして丈夫になる性質があります。
運動しなくなると、負荷がかからなくなり、骨が脆くなるということでもあります。
また、筋肉は骨にくっついていますから、筋肉が弱くなると、当然骨も弱くなります。
元気な高齢者であれば、ウォーキングなどを行い、普段から脚を丈夫にしておくことが肝心です。
また、前述のように大元の原因は高齢に伴う骨粗鬆症です。骨粗鬆症の進行を防ぐことができれば、転倒での大腿骨頸部骨折の発生する確率を減らすことができます。
70歳以上の方は、症状がなくても骨粗鬆症の検査を行い、早期発見、早期治療を目指しましょう。
参考文献
小関 博久ら : おはよう21 12月号, 2013
日本整形外科学会/日本骨折治療学会監修,日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/大腿 骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン策定委員会編集.大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン 2021.改訂第 3 版.東京:南江堂;2021.
太田 真悟ら : 大腿骨頸部骨折 整形外科看護 Vol.1 No.27, 2022.