コラム
Column
閉経後の骨と筋肉が教えてくれること~今から始める『寝たきりにならない』体づくり~
こんにちは、桃谷うすい整形外科の瀬尾です!
「80代、90代になっても、自分の足で元気に歩いていたい」
「将来、家族に迷惑をかけることになったらどうしよう…」
50代を過ぎ、ふとご自身の未来を考えたとき、漠然とした不安を感じることはありませんか?
実は、閉経後の女性の体には、骨がもろくなる「骨粗しょう症」と、筋肉がやせ衰える「サルコペニア」という、2つの大きな変化が同時に訪れます。この「ダブルパンチ」こそが、将来の「寝たきり」につながる最大の危険因子なのです。
しかし、決して悲観する必要はありません。50代、60代からでも、科学的に正しい対策を始めれば、未来は大きく変えられます。この記事では、なぜこのダブルパンチが危険なのか、そして「寝たきりにならない」体をつくるための具体的な方法を、整形外科の視点から解説します。
なぜ閉経後にリスクが急増?骨と筋肉の「ダブルパンチ」とは
女性ホルモンであるエストロゲンには、骨が過剰に壊されるのを防ぐ「ブレーキ」の役割と、筋肉量を維持する働きがあります。しかし、閉経によってエストロゲンが急激に減少すると、このブレーキと維持機能が失われ、体に大きな変化が訪れます。
1. 骨がスカスカになる「骨粗しょう症」
骨の破壊スピードが再生スピードを上回り、骨の中がスカスカになってしまう状態です。骨粗しょう症になると、骨が非常にもろくなり、くしゃみをしたり、少しつまずいたりしただけで骨折してしまう危険性が高まります。
2. 筋肉がやせ衰える「サルコペニア」
年齢とともに筋肉量が自然に減少していく現象ですが、エストロゲンの減少によってそのスピードが加速します。サルコペニアが進行すると、筋力やバランス能力が低下し、転倒しやすくなります。
この2つが組み合わさると、「サルコペニアで転びやすくなり、骨粗しょう症で骨折しやすくなる」という、まさに「寝たきり」に直結する最悪の悪循環に陥ってしまうのです。特に、足の付け根の骨折(大腿骨頸部骨折)は、骨折後の死亡率を5倍以上に高めるという大規模な研究報告もあり、多くの高齢者が寝たきりになる最大の原因となっています。
50代からでも間に合う!科学的に正しい「貯骨&貯筋」トレーニング
幸いなことに、骨も筋肉も、いくつになっても「適切な刺激」を与えることで、強くすることができます。今日から「骨の貯金=貯骨」と「筋肉の貯金=貯筋」を始めましょう。
■ 骨には「衝撃」を! 自宅でできる「かかと落とし」
骨は、衝撃や負荷がかかることで、骨を作る細胞が活性化し、強くなります。
- 安定した壁や椅子の横に立ち、軽く手をつきます。
- 両足のかかとを、ゆっくりとできるだけ高く上げます。
- 上げた状態から、ストンと力を抜いて、両かかとを同時に床に落とします。
- これを1日30回程度を目安に行いましょう。かかとから伝わる「トントン」という軽い衝撃が、全身の骨を刺激します。
■ 筋肉には「負荷」を! テレビを見ながら「ゆっくりスクワット」
筋肉は、少しキツいと感じるくらいの負荷(抵抗)をかけることで成長します。特に下半身の大きな筋肉を鍛えることが効率的です。
- 椅子の前に立ち、肩幅に足を開きます。
- 転倒しないように、椅子の背もたれなどに軽く手を添えます。
- お尻を後ろに突き出すように、5秒かけてゆっくりと腰を落とします。
- 膝が90度くらいに曲がったところで2秒止め、また5秒かけてゆっくりと立ち上がります。
- これを10回1セットとし、1日に2セット行いましょう。
運動だけでは不十分!体を作る「栄養戦略」と「転倒予防」
■ カルシウムだけじゃない!骨と筋肉の材料を摂る
丈夫な体を作るには、運動だけでなく栄養も不可欠です。
- カルシウム(骨の材料): 牛乳、小魚、豆腐など
- ビタミンD(カルシウムの吸収を助ける): きのこ類、鮭、サンマなど。日光浴も効果的です。
- ビタミンK(骨にカルシウムを沈着させる): 納豆、ほうれん草、ブロッコリーなど
- タンパク質(筋肉の材料): 肉、魚、卵、大豆製品など。毎食、手のひら1枚分を目安に。
■ 転ばない環境を作る
骨折の最大の原因は「転倒」です。ご自宅に危険が潜んでいないか、チェックしてみましょう。
- 床に物を置かない、コード類をまとめる
- カーペットの端やマットがめくれていないか確認する
- 廊下や階段、トイレなど、夜間に通る場所は足元灯をつける
- お風呂場やトイレに手すりを設置する
不安な方はご相談を。整形外科でできる骨と筋肉の専門的評価
「自分が骨粗しょう症やサルコペニアになっていないか心配…」という方は、一度整形外科で専門的な評価を受けることをお勧めします。
当院では、DXA(デキサ)法という精度の高い機器で骨密度を正確に測定し、骨粗しょう症のリスクを評価します。また、筋肉量や握力、歩行速度などを測定し、サルコペニアの診断も行います。
診断結果に基づき、必要であれば骨粗しょう症の治療薬を処方したり、専門の理学療法士が、あなたのためだけの安全で効果的な運動プログラムを作成したりすることも可能です。
まとめ:未来の自分のために、今日から「骨と筋肉の貯金」を始めよう
閉経後の体には、確かに骨と筋肉が弱くなるという変化が訪れます。しかし、それは「寝たきり」への一方通行の道ではありません。
体の仕組みを正しく理解し、骨には「衝撃」、筋肉には「負荷」という適切な刺激を与え、バランスの良い食事を心がけることで、その流れに力強く抗うことができます。
未来のあなたが、笑顔で自分の足で歩いているために。今日から、コツコツと「骨と筋肉の貯金」を始めてみませんか。
参考論文
- Lu L, Tian L. Postmenopausal osteoporosis coexisting with sarcopenia: the role and mechanisms of estrogen. Journal of Endocrinology 2023;259(1):JOE-23-0116.
- Haentjens P, Magaziner J, et al. Meta-analysis: Excess mortality after hip fracture among older women and men. Annals of Internal Medicine 2010;152(6):380-390.
- Watson SL, Weeks BK, Weis LJ, et al. High-intensity resistance and impact training improves bone mineral density and physical function in postmenopausal women with osteopenia and osteoporosis: the LIFTMOR randomized controlled trial. Journal of Bone and Mineral Research 2018;33(2):211-220.
- Rizzoli R, Stevenson JC, Bauer JM, van Loon LJC, et al. The role of dietary protein and vitamin D in maintaining musculoskeletal health in postmenopausal women: a consensus statement from the European Society for Clinical and Economic Aspects of Osteoporosis and Osteoarthritis (ESCEO). Maturitas 2014;79(1):122-132.
JR桃谷駅西口出てすぐの天王寺区、生野区から通院しやすいクリニック「桃谷うすい整形外科」では、質の高い医療を提供し、患者さんの問題解決に全力で取り組み、医療者全員が協力して前進し続けることを目指しています。
このコラムを書いた人

瀬尾 真矢
患者様一人ひとりの日常生活やスポーツ復帰を支援するために、適切なリハビリプログラムを提供し、患者様が自信を持って活動できるようサポートいたします。また、痛みや不快感に真摯に向き合い、最善の方法で症状を軽減し、再発予防にも力を入れてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
得意分野
変形性関節症(人工関節術後)、肩関節疾患(保存療法、術後)
スポーツ障害(肩関節、膝関節、足関節)