06-4392-7077 WEB予約 W
E
B

コラム

Column

2024年4月10日

見逃しやすい小児の肘関節周囲骨折と肘内障

こんにちは、院長の臼井です。春になり、入学式の時期になりました。
暖かくなると、子供たちが外で遊ぶようになり、色々な怪我を受傷すると思います。
小児の怪我としてよく遭遇するのは、肘の怪我です。しかし、肘の怪我は非常に複雑であり、整形外科専門医でも見逃したり、発見が難しいことが多い疾患と言われています。

今回は見逃しやすい、発見が困難と言われる「小児の肘関節周囲骨折と肘内障」について書かせていただききます。

まず、基礎知識として、小児の骨端核が出現する時期を頭に入れる必要があります。

小児には6個の骨端核があります。

小児の骨端核が出現する時期

骨端核が出現する時期

1歳:C(上腕骨小頭核)
5歳:R(橈骨頭核)とI(内側上顆)
8歳:T(上腕骨滑車核)と肘頭(O)
11歳:E(外側上顆)
(男子よりも女子が早く出現し、閉鎖(癒合)時期は女子の方が1-2年早い)

12歳 男児の単純X線

図:12歳 男児の単純X線

また、軟骨成分が多く、画像診断に難渋します。特に、外側上顆は出現時期が遅く、すぐに閉鎖するので、見慣れないことから最も骨折と誤診されます。

その中で、最も問題となるのは肘内障との鑑別です。

肘内障の注意点と診断のポイント

症状

局所所見として、腫脹、皮下出血はなく、回内位を保持しつつ屈伸運動を行っても比較的に痛みなくできます。このようなことから骨折の除外診断に有用です。
しかし、橈骨頭を押すと痛がります。さらに回外しようとすると痛がって激しく泣きます。
鑑別として、上腕骨顆上骨折上腕骨外側顆骨折上腕骨内側上顆骨折、橈骨頸部骨折があり、これらはレントゲンだけでは分からない(不顕性)の為、注意が必要です。

肘内障の場合、患肢が腫脹することはないので、少しでも腫脹があれば、骨折の可能性が高いものと考えるべきです。

超音波検査(エコー)

肘内障の診断では、超音波検査が非常に有用です。以下に特徴を示します。

正常(a):橈骨頭の表面に輪状靭帯の線状高エコー(白い)を認めます(*)
また、橈骨頭に接して回外筋の筋幅が認められる

正常(a):橈骨頭の表面に輪状靭帯の線状高エコー(白い)を認めます(*)
また、橈骨頭に接して回外筋の筋幅が認められる

肘内障(b):輪状靭帯と一緒に回外筋が引き込まれている
Jサインと呼ばれ、肘内障の特徴的なエコーの像

肘内障(b):輪状靭帯と一緒に回外筋が引き込まれている
Jサインと呼ばれ、肘内障の特徴的なエコーの像

転位が軽度な上腕骨顆上骨折の注意点と診断のポイント

小児の肘関節周囲骨折において、最も頻度が高いには上腕骨顆上骨折です。
単純X線診断で最も有用なのが、 anterior humeral lineです。肘関節側面では上腕骨の前方の皮質は上腕骨小頭の骨端核のほぼ中央を通ります(図)。上腕骨顆上骨折は背屈転位を示す事が多く、上腕骨小頭の骨端核がanterior humeral lineより後方に位置する場合は上腕骨顆上骨折を疑います。

上腕骨顆上骨折(a-c):側面像で、上腕骨小頭はこの線より後に位置してしまっている
上腕骨顆上骨折(a-c):側面像で、上腕骨小頭はこの線より後に位置してしまっている
上腕骨顆上骨折(a-c):側面像で、上腕骨小頭はこの線より後に位置してしまっている

上腕骨顆上骨折(a-c):側面像で、上腕骨小頭はこの線より後に位置してしまっている

正常(d):肘関節側面像で上腕骨の前方皮質(黒の点線)は上腕骨小頭のほぼ中央を通ります

正常(d):肘関節側面像で上腕骨の前方皮質(黒の点線)は上腕骨小頭のほぼ中央を通ります

▼詳しくはこちら

見逃しやすい上腕骨内側上顆骨折の注意点と診断のポイント

上腕骨内側上顆骨折の好発年齢は9-14歳です。中でも骨片が関節内に嵌入(Watson-Jones Ⅲ型)は、骨片が小さいことから腕尺関節部に嵌入した骨片を単純X線で診断することは難しいとされています。また、正確な診断がされずに保存的に対応された場合には肘関節の可動域制限や骨変形を生じる可能性が高いとされており、注意すべき骨折型です。

また、内側上顆の骨端核の骨化が未成熟な年少児の受傷例では、単純X線検査による診断は困難であり、MRIが必要です。

上腕骨内側上顆骨折(b-c): 骨片は腕尺関節に嵌頓している
上腕骨内側上顆骨折(b-c): 骨片は腕尺関節に嵌頓している

上腕骨内側上顆骨折(b-c): 骨片は腕尺関節に嵌頓している

▼詳しくはこちら

転位の少ない上腕骨遠位骨端線離開

3歳以下の乳幼児に多いことが特徴です。
単純X線診断に有用と言われているのは、Thurstan-Holland sign(corner sign)(図a)です。

上腕骨遠位骨端線離開の治療においては、ギプス固定などでの保存治療は推奨されず手術治療が望ましいとされています。一般的な骨折と異なり、骨端離開では咬合部分がないため離開部分には高度な動揺性が見られ、ギプス固定ではその保持が難しいためです。

腕骨遠位骨端線離開(a):上腕骨小頭の骨端核は未出現です
上腕骨遠位骨端外側部に骨折線(Thurstan-Holland sign陽性=矢印)を認めます

上腕骨遠位骨端線離開(a):上腕骨小頭の骨端核は未出現です
上腕骨遠位骨端外側部に骨折線(Thurstan-Holland sign陽性=矢印)を認めます

上腕骨遠位骨端線離開は頻度が少ないことから担当医の経験値が少ないこと、幼少時の受傷が多いことから、診断はできても手術に躊躇する間に仮骨形成が生じて内反肘変形を残す結果になる危険性があります。

まとめ

こどもの肘関節周囲骨折は、受傷の仕方だけでなく、年齢、性別によっても骨折する場所が異なり多彩な病態を呈します。また、常に神経や血管の合併症に配慮する必要があるので注意が必要です。

さらに小児肘TRASH(The Radiographic Appearance Seemed Harmless)病変と呼び、「単純X線では一見軽微な損傷のように見えるが、見逃すと重篤な機能障害を引き起こし得る」という特徴があります。こどもの肘関節には軟骨成分が多く、単純X線のみでは正確な診断ができない損傷形態が多いことからこのように呼ばれています。TRASH病変を疑う場合、専門機関でMRI検査などを勧めることがあります。

いずれにせよ、こどもが転んで「肘が痛い」「肘が腫れている」と訴えたら、出来るだけ早く受診してください。

参考文献

森田 晃造ら:小児肘関節周辺骨折 総論  MB Orthop. 33(5) : 41-45, 2020.
金谷 耕平ら:小児肘関節周囲骨折の診断 MB Orthop. 30(10) : 97-104, 2017.
横井 広道ら:診断の難しい小児肘関節外傷 MB Orthop. 36(6) : 89-95, 2023.

一覧に戻る
所在地 〒543-0033
大阪府大阪市天王寺区堂ヶ芝1丁目11番3号
DSt桃谷ビルディング 2階
休診日 木曜・日曜・祝日