コラム
Column
動かすと悪化する?安静にしすぎる? 関節可動域エビデンスから見る“適切な運動量”

こんにちは!桃谷うすい整形外科の瀬尾です!
「動かすと余計に痛む気がするから、しばらく腕を使わずに休めておこう」
五十肩(肩関節周囲炎)で受診された方から、よく聞く言葉です。ところが“安静にしすぎる”ことこそ、関節包の癒着を進め可動域(ROM)を悪化させる最大のリスク要因とエビデンスは示しています。一方で、“痛みをこらえて動かしすぎる”と炎症が増幅し、夜間痛を長引かせる結果にも。では、どの程度の運動量が最適なのでしょうか? 最新の臨床研究とガイドラインに基づいて解説します。
エビデンスで見る「安静 vs. 運動」の境界線

- 可動域エクササイズ+マニュアルセラピーは機能回復を促進
CochraneレビューではROM運動と徒手療法を組み合わせた群が、安静群より疼痛と機能で中等度~大きな効果量を示しました。 - 痛みを許容範囲に抑えた“症状依存型”運動
Physical Therapy誌のRCTでは、痛みがVAS 5/10 未満に収まる範囲での漸増的運動が最も可動域改善を達成。 - 完全な安静は関節包の線維化を助長
肩を固定した動物モデルで7日以内の可動域制限でも炎症性サイトカインが顕著に上昇し、拘縮を引き起こすことが報告されています。
適切な運動量を決める3ステップ
- 疼痛レベルをモニタリング
運動中の痛みがVAS 4/10 以下であれば継続、超える場合は負荷または回数を半分に調整。 - フェーズ別プログレッション
- 炎症(凍結前)期:振り子運動(Stooping エクササイズ)10回×3セット/日
- 拘縮(凍結)期:スティック外旋・ストレッチ各30秒×3セット/日(可能であれば30秒×10セット)
- 回復(解凍)期:可動域全域でのアクティブROM+肩甲骨筋強化
- 「痛みが翌日まで残らない」ことを指標に
トレーニング後24時間以内に痛みがベースラインへ戻れば適量。戻らない場合は負荷20%減を目安に。
よくある疑問Q&A
- Q:ズキズキしている日は完全に休むべき?
A:振り子運動など痛みの出ない範囲で循環を促すほうが回復が早いと報告されています。 - Q:週に何日リハビリすればいい?
A:JOSPTガイドラインは週3~5日、1回20~30分の自宅運動を推奨。 - Q:運動後すぐにアイシングは必要?
A:疼痛が増す場合のみ。痛みが許容範囲なら温熱で血流を保つほうが可動域改善に寄与します。
当院のサポート
- 初診時に超音波検査で炎症所見を確認し、病期に応じたROM目標を設定。
- 理学療法士が個別運動プログラム(負荷・回数・頻度)をその場で作成し、痛み日誌アプリで進捗を共有。
- 疼痛期はステロイド注射や肩甲上神経ブロックで炎症をコントロールし、「動かせる状態」を早期に確保。
早期受診の目安
- 自宅運動を2週間試しても外旋ROMがほとんど増えない
- 運動後の痛みが24時間以上引かない
- 日常動作(洗髪・着替え)が日に日に悪化する
「動かすと悪化するのでは」と不安になる気持ちは当然です。しかし、最新エビデンスは適切な範囲での運動こそ最短回復への近道と示しています。自己流の安静や無理なトレーニングで回復を遅らせないためにも、理学療法士と二人三脚で“ちょうどいい運動量”を見つけましょう。肩の動きでお困りの際は、いつでも当院にご相談ください。
参考論文
- Page MJ, Green S, Kramer S, et al. Manual therapy and exercise for adhesive capsulitis of the shoulder. Cochrane Database Syst Rev. 2014;CD011275.
- Yang JL, Chang CW, Chen SY, Lin JJ. Mobilization techniques in subjects with frozen shoulder syndrome: randomized multiple-treatment trial. Physical Therapy. 2007;87(10):1307-1315.
- Kelley MJ, Shaffer MA, Kuhn JE, et al. J Orthop Sports Phys Ther. 2013
JR桃谷駅西口出てすぐの天王寺区、生野区から通院しやすいクリニック「桃谷うすい整形外科」では、質の高い医療を提供し、患者さんの問題解決に全力で取り組み、医療者全員が協力して前進し続けることを目指しています。
このコラムを書いた人

瀬尾 真矢
患者様一人ひとりの日常生活やスポーツ復帰を支援するために、適切なリハビリプログラムを提供し、患者様が自信を持って活動できるようサポートいたします。また、痛みや不快感に真摯に向き合い、最善の方法で症状を軽減し、再発予防にも力を入れてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
得意分野
変形性関節症(人工関節術後)、肩関節疾患(保存療法、術後)
スポーツ障害(肩関節、膝関節、足関節)