腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症とは
腰椎は5つの椎骨から構成され、それぞれの椎体は前方では椎間板と呼ばれる軟骨、後方では靭帯や椎間関節を介して連結されています。
椎骨の真ん中に脊柱管と呼ばれるスペースがあり、脊柱管の中を神経組織(馬尾、神経根)が走っています。
腰部脊柱管狭窄症とは、神経の通路である脊柱管が腰椎レベルで狭くなることで、神経組織(馬尾、神経根)が圧迫されて症状が出る病気です。
図:腰部脊柱管狭窄症
出典:奥田 眞也ら : 腰部脊柱管狭窄症・腰椎変性すべり症 整形外科看護 Vol.23 No.5, 2018.
脊柱のずれ(すべり)が生じていないものが「脊柱管狭窄症」、ずれを生じているものが「変性すべり症」とされています。
神経の圧迫要素としては、椎間板や椎間関節の骨棘、肥厚した黄色靭帯が挙げられますが、加えて滑りなどの動きの要素も含まれます。
腰部脊柱管狭窄症の原因
主な原因は加齢変化ですが、生まれつき脊柱管が細い、椎弓や椎間関節が変性すべり症を生じやすい形状になっているなどの場合もあります。
腰部脊柱管狭窄症の症状
神経根症状、馬尾症状、あるいはそれらの混症状があります。
神経根症状とは、圧迫を受けた障害神経根の支配領域の痺れ、痛みと支配筋の筋力低下などです。
一方、馬尾症状の3つの徴候として、
- 神経根の症状が両側のみられること
- 下肢腱反射の低下もしくは消失
- 膀胱直腸障害
が挙げられます。
ただし、実際は全ての所見が揃うことは稀で、それらが部分的に確認されることがほとんどです。
特徴的な症状は間欠跛行(※)で、歩行距離に応じて下肢の痺れや痛みが生じて歩けなくなる状態を指します。しゃがんだり座ったりすると症状が改善し、また歩くことが出来るのが特徴です。これは立位の姿勢では、脊柱管が構造的に狭くなって神経の圧迫が増加するためで、体を前屈すると脊柱管がやや広くなり、神経圧迫が解除されるので症状が改善します。
(※)間欠跛行
歩行により下肢の疼痛・痺れ・脱力が出現、あるいは増強し、歩行困難になる。しばらく休息すると症状は消失あるいは減弱し歩行可能となるが、また歩行すると同様の症状が出現する現象
腰部脊柱管狭窄症の検査
身体診察にて神経根型、馬尾型、混合型の症状を鑑別します。疼痛や痺れの範囲、間欠跛行の有無を確認します。患者さんに立位や、後屈位になって頂き、症状が誘発されるか確認することもあります。
画像検査ではX線、MRI検査などが行われますが、変性滑り症などの動的要素の評価には脊髄造影剤検査が必要な場合があります。また、血管性の間欠跛行との鑑別に上肢と下肢の血圧値の比であるankle brachial pressure index(ABPI)の測定を行うこともあります。
腰部脊柱管狭窄症の治療
治療は痛みに対する消炎鎮痛薬、筋弛緩薬、プロスタグランジン製剤、ビタミンB12製剤を使用します。また、痛みが強い場合は神経ブロック(硬膜外ブロック、神経根ブロック)が行われます。
理学療法として、牽引や温熱療法が挙げられます。コルセットの着用で歩行距離の延長と疼痛の軽減を得られると報告されています。症状が強い場合は腰椎伸展を制限するような半硬性コルセットを使用する場合もあります。
保存治療の有効性は70%であると報告されています。ガイドライン上、残尿・尿もれなどの膀胱直腸障害の出現や、下垂足などの重度の筋力低下を認める場合を除けば、保存治療を優先させることで症状の改善が望めると言われています。
保存治療に抵抗性の場合は、手術治療を考えます。手術治療の適応は、前述のような膀胱直腸障害や筋力低下が発生した場合のほか、間欠跛行によって日常生活(ADL)が制限される場合です。
手術治療の基本は、狭くなっている脊柱管の部分を広くして神経の圧迫を取り除くことです(除圧)。変性すべり症のような動きの要素が強い場合には、固定術を併用する場合もあります。
図:腰部脊柱管狭窄症(腰椎変性すべり症)の手術
出典:奥田 眞也ら : 腰部脊柱管狭窄症・腰椎変性すべり症 整形外科看護 Vol.23 No.5, 2018.
参考文献
牧野 孝洋. 医学のあゆみ, Vol236 No.5, 2011
Watter,W. C. 3rd. et al. : Spine : 8:305-310, 2008.
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蓮江 光男:整形・災害外科,34:241-243, 1991.
日本脊椎脊髄病学会(編):脊椎脊髄病用語辞典,改訂第4版(鷲見正敏委員長).南江堂,2010,p.47.
奥田 眞也ら : 腰部脊柱管狭窄症・腰椎変性すべり症 整形外科看護 Vol.23 No.5, 2018.