コラム
Column
なぜ歳を重ねると、「ひざ」が痛くなるの?
こんにちは。
桃谷うすい整形外科院長 臼井 俊方(うすい としまさ)です。
今回はお伝えさせて頂く内容は、加齢に伴い、ひざが痛くなる原因についてです。
60才以上の患者さんの膝痛の原因として、最も多いのは変形性ひざ関節症です。
我が国の罹患率は60才以上で55%に達し、自覚症状を有する患者数は約1000万人、潜在的な患者数(レントゲン診断による患者数)は3000万人と推定されています。
なぜ変形性ひざ関節症になり、ひざが痛くなるのかについてご説明します。
ひざの構造について
図のように、膝関節には軟骨と滑膜組織というものが存在します。
軟骨の厚みは2-4mm程で水分が80%もある非常に滑らかな組織です。この軟骨が関節の表面を覆っているので、膝の屈伸運動をスムーズにする役割とクッションの役割を担っています。
この軟骨が、加齢や機械的刺激(運動、けが)によって経時的にすり減ってしまいます。
最終的に図のように関節の骨が変形(骨棘、骨嚢胞、骨硬化など)し、O脚やX脚になってしまいます。
また、関節は関節包という組織で包まれています。その関節包の裏側(膝関節内側)は滑膜組織という組織でできています。
滑膜組織とは、関節包を覆う薄い膜状の組織で、関節内の潤滑油となったり軟骨の栄養となったりする関節液を作り出す組織です。また、滑膜は血管と神経が豊富な組織の為、滑膜炎が発生すると膝に水が溜まり、強い痛みが発生することが多いです。
初期の痛みについて
加齢に伴い、軟骨が傷んだり、自然に少しずつ脆くなったりしてきます。その際に軟骨がベリッと剥がれ、軟骨片が関節内に浮遊します。浮遊した軟骨片と滑膜組織が反応して、滑膜の炎症(滑膜炎)が発症します。
滑膜は前述したように血管と神経が多いため、
- 関節内では炎症性の関節液が産生されることにより腫れます。
- さらに神経を刺激して痛みを感じます。
これが初期のひざの痛みのメカニズムです。
ですので、動かした日の夜が痛いなどという症状を訴える患者さんもおられます。
このようにして、軟骨が徐々に薄くなっていき、変形性ひざ関節症が進行します。
末期の痛みについて
続いて、末期の痛みについてです。
実はこの軟骨には感覚神経がありません。ですので、軟骨同士が接触しても通常は強い痛みを感じることはありません。しかし、軟骨が徐々に薄くなっていき、完全になくなると骨が露出します。図のように、骨の表面に感覚神経が露出してきます。
このような状態になると、体重をかけた時(特に階段の下り!)で踏み込むたびに骨同士が接触し(≒感覚神経同士が接触)、非常に強い痛みを感じます。
これが、末期の変形性ひざ関節症の痛みのメカニズムです。
参考文献
阿漕 孝治ら : 変形性関節症の痛みの機序 医学のあゆみ Vol.278 No.1, 2021.
Aso K. Arthritis Res Ther 2021;23(1)35.
Aso K. OsteoArthritis Cartilage 2020;28(9):1245-54
國分 将道ら : 人工膝関節全置換術(TKA) 整形外科看護 Vol.28 No.9, 2023.