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初心者ランナーのランナー膝予防ガイド〜走り始める前に知っておきたいこと〜
こんにちは、桃谷うすい整形外科の瀬尾です!
「健康のためにランニングを始めたのに、膝の外側が痛くなった」「まだ始めて2ヶ月なのに、もうランナー膝になってしまった」。初心者ランナーの方から、このような相談を多くいただきます。実は、ランナー膝(腸脛靭帯炎)は、ベテランランナーよりも初心者ランナーに多く発症します。なぜ初心者に多いのか?どうすれば予防できるのか?今回は、理学療法士の視点から、初心者ランナーがランナー膝にならないための予防ガイドを解説します。
ランナー膝とは?医師が解説する痛みのメカニズム
ランナー膝の医学的定義
ランナー膝(腸脛靭帯炎)は、膝の外側にある腸脛靭帯が炎症を起こす状態です。腸脛靭帯が膝の外側で繰り返し摩擦することで、炎症が起こり痛みが発生します。
エコーで「見える」腸脛靭帯の炎症
当院では、エコーで腸脛靭帯の状態を詳しく観察します。正常な腸脛靭帯は薄くて滑らかですが、炎症を起こすと厚くなり、周辺組織に炎症が見られます。
初心者に多い理由
初心者ランナーは、股関節の筋力不足、不適切なシューズ、急激なトレーニング量の増加により、ランナー膝を発症しやすい傾向があります。

理学療法士が注目する、初心者のランナー膝の4つの原因
原因1:急激なトレーニング量の増加
1週目は5km×2回、2週目は7km×3回、3週目は10km×3回(急に距離と頻度を増やす)と急激に増やすと、4週目に膝の外側が痛くなります。体(筋肉、靭帯、骨)が急激な負荷に適応できず、腸脛靭帯に微細な損傷が蓄積し、回復する時間がないためです。正しい増やし方は、1週間の走行距離を前週比10%以内の増加にとどめることです。
原因2:股関節・体幹の筋力不足
普段運動していなかった人が、いきなりランニングを始めると、股関節や膝を支える筋力が不足しています。特に不足している筋肉として、中殿筋(お尻の外側)、大殿筋(お尻全体)、体幹(腹筋、背筋)があり、着地時に骨盤が傾き、膝が内側に入る(ニーイン)ため、腸脛靭帯に過度な負担がかかり、ランナー膝を引き起こします。
原因3:不適切なシューズ選択
初心者がやりがちなシューズの間違いとして、「家にあった古いスニーカー」で走る、「軽いシューズが良い」とレーシングシューズを選ぶ、「オシャレ」だけでシューズを選ぶ、サイズが合っていないなどがあります。クッション性が低いと膝への衝撃が大きく、安定性が低いと膝が内側に入りやすくなります。
原因4:フォームの問題と休息不足
初心者は、効率的なランニングフォームが身についていません。オーバーストライド(歩幅が広すぎる)、体の中心線をクロスする走り方、上半身が左右にぶれる、かかとから強く着地するなどのNGフォームが多く見られます。また、「毎日走れば早く上達する」と思い、休息日を設けずに走り続けると、体が回復せず、ランナー膝を引き起こします。
初心者ランナーのためのランナー膝予防ガイド
初心者ランナーがランナー膝を避けるには、以下の7つの対策を実践することが重要です。
対策1:「10%ルール」を守る
「10%ルール」を守ることが重要です。1週間の走行距離は、前週比10%以内の増加にとどめましょう。Week 1は10km、Week 2は11km(10%増)、Week 3は12km(9%増)、Week 4は13km(8%増)、Week 5は14km(8%増)というように、段階的に増やします。守れないと、体が急激な負荷に適応できず、ランナー膝、シンスプリント、疲労骨折のリスクが高まります。
対策2:走る前に筋力をつける
走る前に筋力をつけることも重要です。ランニングを始める前に、最低4週間の筋力トレーニングを行いましょう。中殿筋トレーニング(クラムシェル)として、横向きに寝て、両膝を90度に曲げ、かかとをつけたまま、上の膝を開いて2秒キープし、ゆっくり閉じます。15回×3セット、週3回行いましょう。体幹トレーニング(プランク)として、肘とつま先で体を支え、体を一直線に保って30秒キープします。30秒×3セット、週3回行いましょう。スクワットとして、足を肩幅に開き、お尻を後ろに引きながら、膝を曲げ、太ももが床と平行になるまで下ろし、ゆっくり立ち上がります。10回×3セット、週3回行いましょう。
対策3:初心者向けシューズを選ぶ
初心者向けシューズを選ぶことも重要です。クッション性が高い(ミッドソールが厚い)、安定性が高い(「スタビリティ」「サポート」と表記)、重さ280〜350g(軽すぎるシューズは初心者には不向き)、ドロップ8〜10mmのシューズがおすすめです。
対策4:正しいフォームを身につける
正しいフォームを身につけることも重要です。ストライドを短くし、オーバーストライド(歩幅が広すぎる)を避け、ピッチ(1分間の歩数)180歩を目標にし、体の真下に着地します。上半身をリラックスさせ、肩の力を抜き、腕は90度に曲げ、自然に振り、視線は前方10m先にします。膝とつま先が同じ方向を向くようにし、着地時、膝が内側に入らないようにし、鏡の前で走るフォームを確認します。
対策5:週2日は完全休息日を設ける
週2日は完全休息日を設けることも重要です。初心者の理想的なスケジュールとして、月はラン(3〜5km)、火は休息、水はラン(3〜5km)、木は休息or筋トレ、金はラン(3〜5km)、土は休息、日はロング走(6〜8km)です。休息日は、筋肉、靭帯、骨が回復し、疲労が蓄積せず、ケガのリスクが減るため、重要です。
対策6:ランニング後のケアを怠らない
ランニング後のケアを怠らないことも重要です。腸脛靭帯ストレッチとして、壁の横に立ち、痛い方の足を後ろに引き、反対の足とクロスさせ、壁側に骨盤を押し出して30秒キープします。30秒×3セット行いましょう。アイシングとして、ランニング後、膝の外側を15〜20分アイシングし、炎症を抑え、回復を早めます。
対策7:痛みのサインを見逃さない
痛みのサインを見逃さないことも重要です。ランニング後、膝の外側に軽い違和感、翌朝、膝の外側を押すと軽い痛み、階段を降りるとき、膝の外側に違和感といった症状があれば、すぐに休息をとりましょう。「まだ痛くないから大丈夫」ではなく、「違和感の段階で休む」ことが、ランナー膝予防の鍵です。
当院のサポート:初心者ランナー向けプログラム
セルフケアで不安がある場合や、安全にランニングを続けたい場合は、専門家のサポートを受けることをお勧めします。当院では、医師と理学療法士が連携し、一貫したサポートを提供します。
- STEP1:ランニング前チェック – ランニングを始める前に、理学療法士が股関節の筋力、柔軟性、体幹の安定性を評価します。弱点があれば、走る前に筋力トレーニングを指導します。
- STEP2:シューズ選びのアドバイス – あなたの足の形、ランニングフォーム、目標に合った初心者向けシューズをアドバイスします。ランニングフォームを動画撮影し、オーバーストライドやニーインなどの問題点を指摘します。正しいフォームを身につけ、ケガを予防します。無理のない、安全な12週間トレーニングプランを一緒に作成します。
まとめと受診の目安
ランナー膝は正しい知識で予防できます
初心者ランナーは、急激なトレーニング量の増加、筋力不足、不適切なシューズ、フォームの問題、休息不足により、ランナー膝を発症しやすいです。「10%ルール」を守り、走る前に筋力をつけ、適切なシューズを選び、正しいフォームを身につけ、休息日を設けることで、ランナー膝は予防できます。当院では、初心者ランナー向けのプログラムを提供し、ケガなく、楽しくランニングを続けられるようサポートします。
こんな症状があれば早めにご相談ください
以下のような症状がある場合は、早めにご相談ください。痛みを我慢して走り続けると、症状が悪化し、治療期間が長引く可能性があります。
- ランニングを始めたばかり(3ヶ月未満)
- 膝の外側に違和感がある
- 「走り方がわからない」と不安
- ケガなく安全にランニングを楽しみたい
- フルマラソン完走を目指している
関連記事
参考論文
- Nielsen RO, et al. “Training errors and running related injuries: a systematic review”. Int J Sports Phys Ther. 2012; 7(1): 58-75.
- Buist I, et al. “Incidence and risk factors of running-related injuries during preparation for a 4-mile recreational running event”. Br J Sports Med. 2010; 44(8): 598-604.
- Fredericson M, et al. “Hip abductor weakness in distance runners with iliotibial band syndrome”. Clin J Sport Med. 2000; 10(3): 169-175.
初心者ランナーでお悩みの方は、私たち専門家チームと一緒に、痛みの根本原因を探り、改善を目指しませんか?ランニングは、正しい知識と準備があれば、生涯楽しめるスポーツです。焦らず、無理なく、私たちと一緒に、ランニングライフを始めませんか?どうぞお気軽に当院へご相談ください。
JR桃谷駅西口出てすぐの天王寺区、生野区から通院しやすいクリニック「桃谷うすい整形外科」では、質の高い医療を提供し、患者さんの問題解決に全力で取り組み、医療者全員が協力して前進し続けることを目指しています。
このコラムを書いた人

瀬尾 真矢
患者様一人ひとりの日常生活やスポーツ復帰を支援するために、適切なリハビリプログラムを提供し、患者様が自信を持って活動できるようサポートいたします。また、痛みや不快感に真摯に向き合い、最善の方法で症状を軽減し、再発予防にも力を入れてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
得意分野
変形性関節症(人工関節術後)、肩関節疾患(保存療法、術後)
スポーツ障害(肩関節、膝関節、足関節)