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コラム

Column

2025年10月28日

閉経後に「土踏まず」が消える? 女性ホルモンの減少が招く「成人期扁平足」の恐怖と、進行を防ぐセルフケア

こんにちは、桃谷うすい整形外科の瀬尾です!

「昔に比べて、土踏まずがなくなってきた気がする…」
「最近、足が疲れやすくなっただけでなく、靴のサイズまで変わったような…」

40代、50代を迎え、このような足の変化に戸惑いを感じている女性は少なくありません。実はその変化、単なる加齢や体重のせいだけではなく、閉経(更年期)に伴う女性ホルモンの減少が大きく関わっている可能性があるのです。

近年の研究で、その変化と女性ホルモンの間に、無視できない深い関係があることが次々と明らかになってきました。この記事では、なぜ女性ホルモンの変化が「成人期扁平足」を招くのか、最新の医学的根拠を交えながら詳しく解説し、今日から始められる進行予防のセルフケアをご紹介します。

女性ホルモンが鍵!なぜ閉経後に「土踏まず」が崩れるのか?

扁平足について

足の土踏まず(アーチ)は、体重を支え、歩行時の衝撃を吸収する「バネ」のような重要な役割を担っています。このアーチ構造は、骨だけでなく、複数の靭帯(じんたい)と、特に重要な「後脛骨筋(こうけいこつきん)」という筋肉の腱によって、ハンモックのように吊り上げられて維持されています。

そして、このアーチが潰れてしまう「成人期扁平足」の最大の原因が、後脛骨筋腱が弱ってしまう「後脛骨筋腱機能不全(PTTD)」です。臨床データでは、この症状は男性に比べて女性の発症率が3倍も高く、特に閉経後の女性に多発することが報告されています。

なぜ、この年代の女性に集中するのでしょうか?その答えの鍵を握るのが、女性ホルモン「エストロゲン」です。

私たちの腱や靭帯には、エストロゲンを受け取るための「受容体(レセプター)」が存在します。エストロゲンは、組織のハリを保つコラーゲンの生成を促し、腱や靭帯のしなやかさと強度を保つ働きをしています。

しかし、閉経期を迎えエストロゲンの分泌量が急激に減少すると、腱のコラーゲン合成能力が低下することが研究で示されています。さらに、エストロゲンはコラーゲンの線維同士を固く結びつける「架橋形成」という過程にも関与しており、エストロゲンが減ることで、新しく作られるコラーゲンの”質”も低下し、組織の強度が弱まることが分かってきました。

つまり、閉経後の女性の体では、「コラーゲンの量が減る」と「コラーゲンの質が低下する」というダブルパンチにより、アーチを支える後脛骨筋腱や靭帯が弱くなってしまうのです。この弱った支持組織では体重を支えきれず、徐々にアーチが潰れてしまう。これが、中高年の女性を悩ませる「成人期扁平足」の科学的なメカニズムです。

さらに、一部の女性は遺伝的にこの影響を受けやすいことも示唆されており、エストロゲン受容体の遺伝子タイプによっては、後脛骨筋腱の障害リスクが高まる可能性も指摘されています。

足の形は変わってない?「ウェットフットテスト」で扁平足チェック

ご自身の足裏の状態を客観的に見てみましょう。

  1. 足の裏を水で濡らします。
  2. 乾いた色の濃い紙や、段ボールの上にまっすぐ立ち、足跡をつけます。
  3. 足跡の形を確認します。
扁平足

土踏まずがしっかりしている場合、足跡の真ん中あたりが大きくくびれています。一方、扁平足が進行していると、このくびれがなく、足裏全体がべったりと紙についてしまいます。

今からでも遅くない!アーチの崩れを食い止める「3つのセルフケア」

一度崩れてしまったアーチを完全に戻すのは難しいですが、進行を食い止め、症状を緩和することは十分に可能です。

1.後脛骨筋を狙い撃ち!「内返し踵上げ運動」

アーチを内側から持ち上げる後脛骨筋を、ピンポイントで刺激する運動です。

  • 壁や椅子に手をついて、安定した姿勢で立ちます。
  • 片方の足のつま先を、少しだけ内側に向けます。
  • つま先を内側に向けたまま、ゆっくりとかかとを上げていきます。この時、くるぶしの内側からふくらはぎにかけて、筋肉がキュッと収縮するのを感じましょう。
  • 一番高い位置で少し止め、ゆっくりとかかとを下ろします。
  • これを10~15回を1セットとし、1日2~3セットを目安に行いましょう。

2.ふくらはぎを伸ばす「アキレス腱ストレッチ」

硬くなったふくらはぎ(アキレス腱)は、アーチの崩れを助長します。

  • 壁の前に立ち、両手を壁につけます。
  • 片足を大きく後ろに引き、かかとを床につけたまま、前の膝をゆっくり曲げ、ふくらはぎを30秒ほどじっくり伸ばします。

3.アーチサポートのある靴を選ぶ

靴選びは非常に重要です。靴底が薄く柔らかすぎる靴は避け、土踏まずの部分がしっかり支えられている、安定感のある靴を選びましょう。

痛みが強い場合は専門医へ。当院でのオーダーメイド治療

足の内側(くるぶしの下あたり)に痛みや腫れがある、短時間歩くだけでもつらい、といった場合は、後脛骨筋腱機能不全症が進行している可能性があります。

当院では、理学療法士がお客様の足の状態や歩き方を分析し、進行度に応じた治療プランを提案します。後脛骨筋をサポートするための運動療法の指導に加え、最も効果的な治療法の一つが、その人の足に合わせた「インソール(医療用足底板)」の作成です。インソールは、崩れたアーチを物理的に下から支え、後脛骨筋への負担を劇的に軽減し、痛みの緩和と変形の進行予防に大きな効果を発揮します。

まとめ:ホルモンの変化を知り、賢く足の健康を守りましょう

中高年期の足のトラブルは、「もう年だから」と諦める必要はありません。女性ホルモンの減少が、足の構造を支える腱や靭帯の強度に直接影響を与えるという事実は、数多くの科学的研究によって裏付けられています。

しかし、それは避けられない運命ではありません。体の変化のメカニズムを正しく理解し、後脛骨筋を鍛える運動や適切な靴選びといったセルフケアを実践することで、その進行にブレーキをかけることは可能です。ご自身の体を賢くケアし、いつまでも自分の足で快適に歩ける毎日を守っていきましょう。

後脛骨筋炎

参考論文

  • Pontin, P. A., et al. (2018). Estrogen receptor alpha gene (ESR1) polymorphism is associated with posterior tibial tendon dysfunction in postmenopausal women. Journal of Orthopaedic Surgery and Research, 13(1), 1-7.
  • Chidi-Ogbolu, N., & Baar, K. (2019). Effect of estrogen on musculoskeletal performance and injury risk. Frontiers in physiology, 9, 1834.
  • Frizziero, A., et al. (2014). The role of eccentric exercise in sport injuries rehabilitation. Muscles, Ligaments and Tendons Journal, 4(4), 444.
  • Hansen, M., & Kjaer, M. (2009). Influence of sex and estrogen on tendon and ligament. Journal of Applied Physiology, 106(4), 1403-1404.

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