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コラム

Column

2025年9月25日

もしかして更年期のせい?女性のつらい関節痛、その原因と最新治療を専門医が徹底解説

その指、手首、膝の痛み…年齢のせいだと諦めていませんか?

「朝起きると指がこわばって動かしにくい」
「ペットボトルの蓋が開けづらくなった」
「階段の上り下りで膝が痛むことが増えた」
「これまで感じなかった手首や肘の痛みが出てきた」

40代後半から50代にかけて、このような身体の節々の痛みに悩まされる女性は少なくありません。多くの人が「もう歳だから」「使いすぎだろう」と我慢したり、マッサージなどで一時的にしのいだりしているのではないでしょうか。

しかし、その不調、実は女性ホルモンの急激な変化によって引き起こされる「更年期障害」の一症状である「更年期関節痛」かもしれません。

更年期関節痛は、単なる老化現象ではなく、特有の原因があり、適切な対処法が存在します。放置すると症状が悪化し、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。逆に言えば、正しい知識を持って専門医に相談すれば、そのつらい痛みを和らげ、再び快適な毎日を取り戻すことが可能なのです。

この記事では、整形外科医の立場から、最新の学術論文の知見に基づき、以下の点を詳しく解説します。

  • なぜ更年期に関節が痛くなるのか?その医学的メカニズム
  • 自分でできる、更年期関節痛のセルフチェック法
  • 病院で行われる正確な診断方法
  • メスを使わない最新治療「エコーガイド下ハイドロリリース」とは?
  • 手術以外のさまざまな治療の選択肢

長引く関節の痛みに一人で悩まず、まずはご自身の身体に何が起きているのかを正しく知ることから始めましょう。この記事が、あなたの不安を解消し、治療への第一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。

更年期関節痛とは?その正体と女性ホルモンとの深い関係

更年期関節痛とは、閉経前後の約10年間(一般的に45〜55歳頃)に、女性ホルモンの一つである「エストロゲン」が急激に減少することによって引き起こされる関節の痛みやこわばりの総称です。

驚くべきことに、更年期を迎える女性の半数以上が、何らかの関節痛を経験するという報告もあります。特に、これまで関節リウマチや明らかな変形性関節症と診断されていないのに、複数の関節に痛みが生じるのが特徴です。

なぜエストロゲンが減ると関節が痛くなるのか?

エストロゲンは、妊娠や出産に関わるだけでなく、骨、軟骨、筋肉、腱、そして関節を包む「滑膜(かつまく)」といった組織の健康を維持するために、非常に重要な役割を担っています。

学術的な研究により、エストロゲンが関節に及ぼす好影響が次々と明らかになっています。

抗炎症作用

エストロゲンには、関節内の過剰な炎症を抑える働きがあります。そのため、エストロゲンが減少すると、わずかな刺激でも炎症が起きやすくなり、痛みや腫れを感じるようになります。

軟骨の保護

関節のクッションである軟骨のコラーゲン生成を助け、その質を維持します。エストロゲンが不足すると、軟骨がすり減りやすくなり、変形性関節症の進行を早める可能性が指摘されています。

滑膜の健康維持

関節の動きを滑らかにする「関節液」を産生する滑膜の腫れ(滑膜炎)を抑制します。エストロゲンの減少は、この滑膜の炎症を引き起こし、関節に水が溜まったり、痛みが出たりする原因となります。

痛みの感覚をコントロール

エストロゲンは、脳や脊髄で痛みの感覚を調整する役割も持っています。そのため、減少すると痛みに対して敏感になる(痛みの閾値が下がる)と考えられています。

これらの理由から、エストロゲンという「関節の守り神」が急激に減少する更年期には、これまで問題のなかった関節に、痛みやこわばり、腫れといった症状が多発するのです。

発症しやすい人・部位

発症しやすい人

40代後半から50代の女性に圧倒的に多く見られます。

発症しやすい部位

更年期関節痛の症状チェック

以下の項目に当てはまるものがないか、チェックしてみましょう。

☐45歳以上である。
☐朝、起きた時に手指がこわばる感じがするが、15分程度で楽になる。
☐指の第一関節や第二関節が腫れて痛む。
☐ペットボトルの蓋を開ける、雑巾を絞るなどの動作で手首や指に痛みを感じる。
☐指を曲げ伸ばしすると、カクンと引っかかることがある(ばね指)。
☐親指から薬指の半分にかけて、しびれやピリピリした痛みがある(手根管症候群)。
☐明らかな原因がないのに、膝や肘、肩などが痛む。
☐複数の関節が、日によって違う場所が痛むことがある。
☐痛みだけでなく、ほてり、のぼせ、気分の落ち込みなど、他の更年期症状もある。

3つ以上当てはまる場合は、更年期関節痛の可能性が考えられます。特に、日常生活に支障が出始めている、痛みがだんだん強くなっている、といった場合は、我慢せずに専門医に相談することをお勧めします。

受診の目安

  • セルフチェックで3つ以上当てはまった
  • 痛みのために家事や仕事に集中できない
  • 夜、痛みで目が覚めてしまう
  • 関節の腫れや熱感が続いている
  • 症状が2週間以上改善しない

これらのサインがあれば、一度整形外科を受診しましょう。

クリニックで行う更年期関節痛の正確な診断

更年期関節痛の診断で最も重要なのは、「他の深刻な疾患を見逃さないこと」です。特に、関節リウマチや変形性関節症など、似た症状を持つ他の病気との鑑別が不可欠です。

問診・理学所見

まず、医師が詳しくお話を聞きます。

  • いつから、どの関節が、どのように痛むか
  • 朝のこわばりの有無とその時間
  • 月経の状況(閉経の時期など)
  • 他の更年期症状の有無
  • 過去の病気や怪我、家族の病歴

その後、医師が実際に関節を触ったり、動かしたりして、腫れ、熱感、可動域の制限、押したときの痛みの場所などを丁寧に診察します。

画像検査

X線(レントゲン)検査

骨の変形や、関節の隙間が狭くなっていないかなどを確認します。変形性関節症の進行度を評価するのに有用です。更年期関節痛の初期では、X線で異常が見られないことも多くあります。

MRI検査

X線ではわからない軟骨、半月板、靭帯、滑膜などの状態を詳しく見ることができます。ただし、費用が高く時間もかかるため、特定の疾患が強く疑われる場合に行われることが一般的です。

血液検査

関節リウマチや他の膠原病を除外するために行います。炎症反応(CRP)やリウマトイド因子(RF)、抗CCP抗体などを測定します。更年期関節痛では、これらの数値は基本的に正常範囲内です。

これらの検査を組み合わせることで、「他の病気ではない」ことを確認し、症状や年齢などから総合的に「更年期関節痛」と診断します。

【特集】超音波(エコー)で見る、あなたの身体の中。診断から最新治療まで

近年、整形外科の診断と治療において、超音波(エコー)検査の重要性が飛躍的に高まっています。当院でも、このエコーを最大限に活用し、患者様の身体の状態をより正確に、そしてリアルタイムに把握することに努めています。

エコー検査の絶大なメリット

リアルタイム性

関節や筋肉を動かしながら、その動きをリアルタイムで観察できます。「この動きで痛い」という瞬間に、腱や神経がどうなっているかを直接見ることができます。

非侵襲性・安全性

放射線被曝の心配がなく、痛みもありません。妊娠中の方でも安心して受けられます。

高解像度

近年のエコーは非常に性能が向上しており、MRIでも捉えきれないような数ミリ単位の微細な炎症や、神経・腱のわずかな損傷、癒着(組織がくっついてしまうこと)まで鮮明に描き出すことが可能です。

低負担

検査は短時間で終わり、費用も比較的安価です。

更年期関節痛の診断において、エコーはX線では見えない「滑膜のわずかな炎症」や「腱の腫れ」、「神経のむくみ」などを捉えることができます。これにより、痛みの原因をより正確に特定できるのです。

更年期関節痛の治療法~あなたに合った治療プランを見つける~

更年期関節痛の治療は、一つの方法だけではありません。患者様一人ひとりの症状、ライフスタイル、そして身体の状態に合わせて、様々な選択肢を組み合わせて最適な治療プランを立てていきます。

保存療法

安静・装具療法

痛みが強い時期は、無理をせずに関節を休ませることが大切です。手指の痛みにはテーピングやスプリント(固定具)、手首にはサポーター、膝には膝用サポーターなどを使用し、関節への負担を軽減します。

薬物療法

内服薬

痛みが強い場合には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンなどの鎮痛薬を使用します。

外用薬

湿布や塗り薬も、補助的に痛みを和らげるのに有効です。

漢方薬

体質改善を目的として、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)や桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などが処方されることもあります。

エクオール含有サプリメント

エストロゲンと似た構造を持つ「エクオール」という成分が、一部の更年期症状を緩和する可能性が報告されており、選択肢の一つとなり得ます。

リハビリテーション

痛みが少し落ち着いたら、関節を固まらせないために、専門の理学療法士の指導のもとでリハビリテーションを行います。

ストレッチ

関節周りの筋肉や腱の柔軟性を高め、可動域を改善します。

運動療法

関節に負担の少ない運動(水中ウォーキング、軽い筋力トレーニングなど)で筋力を維持・向上させ、関節を安定させます。

エコーガイド下注射

保存療法やリハビリで改善が乏しい場合、より直接的に痛みの原因にアプローチする注射治療を検討します。

エコーガイド下ハイドロリリース

前述の通り、癒着を剥がして神経や腱の滑走性を改善し、痛みを根本から取り除くことを目指します。ステロイドを使わないため、繰り返し行える利点があります。

エコーガイド下ステロイド注射

炎症が非常に強い場合、関節内や腱の周りにステロイドを注射して、強力に炎症を抑えます。ただし、頻繁に行うと組織を傷めるリスクがあるため、エコーで状態を確認しながら、慎重に適応を判断します。

手術療法

これらの保存療法や注射治療を長期間行っても症状が改善せず、日常生活に著しい支障が出ている場合には、手術が検討されることがあります。

例えば、ばね指が全く改善しない場合の「腱鞘切開術」や、手根管症候群で筋力低下が進行した場合の「手根管開放術」、変形性関節症が末期まで進行した場合の「人工関節置換術」などがあります。

しかし、手術はあくまで最終手段です。多くの更年期関節痛は、手術に至る前に適切な保存療法やエコーガイド下治療で症状をコントロールすることが可能です。「手術はしたくない」という方は、ぜひ早めに専門医にご相談ください。

更年期関節痛の治療期間と今後の見通し

治療期間は、症状の重症度や治療法によって大きく異なります。
ホルモンバランスの変動とともに症状が良くなったり悪くなっ

たりを繰り返しながら、数年単位で付き合っていく方もいます。

重要なのは、痛みをゼロにすることだけを目標にするのではなく、日常生活を快適に送れるレベルに痛みをコントロールし、病状の悪化を防ぐことです。

日常生活で気をつけること・再発予防

身体を冷やさない

血行が悪くなると痛みが増すことがあります。夏でも靴下を履く、シャワーで済ませず湯船に浸かるなど、身体を温める工夫をしましょう。

適度な運動

痛みが強い時は安静が必要ですが、動かさないでいると逆に関節が固まってしまいます。無理のない範囲でストレッチやウォーキングを続けましょう。

バランスの良い食事

カルシウムやビタミンD、タンパク質など、骨や筋肉の材料となる栄養素をしっかり摂りましょう。

体重コントロール

体重が増えると、特に膝や股関節への負担が大きくなります。適正体重を維持するよう心がけましょう。

つらい更年期関節痛、一人で悩まず専門医にご相談ください

更年期に現れるつらい関節の痛みは、決して「歳のせい」と諦める必要のない症状です。その背景には、女性ホルモンであるエストロゲンの減少という明確な医学的根拠があります。

長引く痛みやしびれは、QOL(生活の質)を著しく低下させます。もしあなたが今、原因のわからない関節の不調に悩んでいるなら、それは更年期関節痛かもしれません。

どうぞ一人で抱え込まず、お近くの整形外科、特に超音波(エコー)を用いた診断・治療に力を入れているクリニックにご相談ください。専門医と一緒に、あなたに合った最適な治療法を見つけ、つらい痛みから解放される第一歩を踏み出しましょう。

監修者情報

監修:桃谷うすい整形外科 院長 臼井 俊方

参考文献

・Chlebowski, R. T., et al. “Estrogen Plus Progestin and Colorectal Cancer in Postmenopausal Women.” *New England Journal of Medicine*, vol. 350, no. 10, 2004, pp. 991-1004.
・Magliano, M. “Menopausal arthralgia: A review of the literature.” *Maturitas*, vol. 67, no. 1, 2010, pp. 24-33.
・Roman-Blas, J. A., et al. “The role of oestrogen in the pathogenesis of osteoarthritis.” *Therapeutic Advances in Musculoskeletal Disease*, vol. 1, no. 2, 2009, pp. 111-120.
・Sayegh, R. A., et al. “The effect of hormone therapy on joint symptoms in postmenopausal women.” *Obstetrics & Gynecology*, vol. 120, no. 1, 2012, pp. 93-100.
・Cassim, B., et al. “The musculoskeletal manifestations of the menopause.” *Journal of Endocrinology, Metabolism and Diabetes of South Africa*, vol. 18, no. 2, 2013, pp. 73-77.
・Ito, H., et al. “Ultrasound-guided hydrorelease for painful shoulder with restricted range of motion: a pilot study.” *Journal of Physical Therapy Science*, vol. 31, no. 1, 2019, pp. 105-109.
・Wu, Y. T., et al. “Ultrasound-guided hydro-dissection for carpal tunnel syndrome: a prospective, randomized, double-blind, controlled trial.” *Muscle & Nerve*, vol. 56, no. 5, 2017, pp. 935-942.

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