コラム
Column
巻き肩が原因で腕に痛み・しびれが起こる?~胸郭出口症候群・小胸筋症候群と当院での対処法~

こんにちは。近年、スマートフォンやパソコンの普及にともない、巻き肩(肩が前方へ丸まる姿勢)で悩む方が増えています。このような姿勢が続くと、腕や手に痛みやしびれが出ることがあります。その主な原因として、いわゆる胸郭出口症候群(斜角筋症候群や小胸筋症候群など)による神経や血管の圧迫が考えられます。今回は、巻き肩に伴う腕の症状の原因と、当院で行っている評価方法・治療法についてご紹介します。
巻き肩に伴う腕の痛みやしびれの原因
斜角筋症候群(胸郭出口症候群の一種)
- 首の斜角筋群(前斜角筋・中斜角筋など)の間を、腕神経叢(神経束)や鎖骨下動脈が通っています。
- 巻き肩や不良姿勢が続くと首まわりの筋肉が過緊張を起こし、神経や血管を圧迫することで、腕の痛みやしびれを引き起こしやすくなります。
小胸筋症候群(過外転症候群)
- 小胸筋は肩甲骨の烏口突起(うこうとっき)に付着し、肩甲骨を前下方に引く働きがあります。
- 肩が丸まった姿勢が固定化すると、小胸筋が短縮・過緊張を起こし、近くを走行する神経・血管を圧迫してしまうことがあります。これも胸郭出口症候群の一形態として知られています。
その他の要因
- 長時間のデスクワークやスマホ操作などで背中が丸くなり、頭部が前方へ偏位する姿勢(いわゆる「ストレートネック」や「猫背」)も、胸郭出口周辺のスペースを狭める誘因になります。
- 首や肩まわりの柔軟性不足、インピンジメント(挟み込み)状態の悪化なども痛みやしびれを助長します。
当院における原因の評価方法
整形外科的テスト
- Roosテスト(肩外転挙上試験)やAdsonテストなど、腕神経叢や血管にストレスをかけて症状を再現するテストを行います。
- 痛み・しびれの出現タイミングや強度を観察し、斜角筋症候群や小胸筋症候群など胸郭出口症候群の可能性を評価します。
エコー(超音波検査)を用いた評価
- 斜角筋や小胸筋の形態、神経や血管周囲の滑走不良をリアルタイムに観察します。
- さらにドプラ機能を併用することで、血流の変化や圧迫所見を視覚的に捉えられます。
- MRIなど大掛かりな検査を行う前段階で、簡便に原因部位を推定できるのが利点です。
当院における治療法
エコーガイド下注射
- 神経・血管の圧迫を生じている斜角筋や小胸筋などに対して、エコーガイド下で局所麻酔薬や消炎鎮痛薬を注射します。
- 正確にアプローチできるため、痛みの軽減や筋緊張の緩和に効果的です。
- 必要に応じて、生理食塩水を用いた「ハイドロリリース(組織リリース注射)」で癒着をはがす処置を行うこともあります。
理学療法(エコーガイド下)
- 巻き肩をもたらしている姿勢や、肩甲帯・胸椎まわりの可動域制限を改善するため、専門的なリハビリを行います。
- エコーで筋肉の状態を確認しながら小胸筋や斜角筋のリリース、肩甲骨周囲の筋力強化、姿勢矯正を実施。
- 日常生活やデスクワークでの姿勢指導・ストレッチ指導もあわせて行い、再発防止を図ります。
まとめ
長時間のスマホ操作やPC作業による巻き肩が、斜角筋症候群や小胸筋症候群(胸郭出口症候群の一部)を誘発し、腕や手の痛み・しびれを引き起こすケースが増えています。もし「腕がしびれる」「肩や首がこりやすく、神経痛のような痛みがある」という方は、早めの受診がおすすめです。
当院では、整形外科的テストやエコー検査を用いて、原因となる筋肉・神経の状態を詳しく評価します。その後、エコーガイド下注射や理学療法(エコーガイド下)の組み合わせで適切にアプローチし、症状の軽減と根本改善を目指します。巻き肩の原因を取り除き、快適な上肢のコンディションを取り戻しましょう。
胸郭出口症候群
参考論文
- Roos DB. Thoracic outlet syndrome: past and present. Arch Surg. 1966;93(1):71–74.
- Sanders RJ, Hammond SL, Rao NM. Thoracic outlet syndrome: A review. Neurol Clin. 2007;25(2): 499–519.
- Hooper TL, Denton J, McGalliard MK, Brismée JM, Sizer PS. The thoracic outlet syndrome: the management of neuropathic scapulothoracic pain. Man Ther. 2010;15(3):305–314.
- Brantigan CO, Roos DB. Diagnosing thoracic outlet syndrome. Hand Clin. 1995;11(1):25–35.
JR桃谷駅西口出てすぐの天王寺区、生野区から通院しやすいクリニック「桃谷うすい整形外科」では、質の高い医療を提供し、患者さんの問題解決に全力で取り組み、医療者全員が協力して前進し続けることを目指しています。
このコラムを書いた人

瀬尾 真矢
患者様一人ひとりの日常生活やスポーツ復帰を支援するために、適切なリハビリプログラムを提供し、患者様が自信を持って活動できるようサポートいたします。また、痛みや不快感に真摯に向き合い、最善の方法で症状を軽減し、再発予防にも力を入れてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
得意分野
変形性関節症(人工関節術後)、肩関節疾患(保存療法、術後)
スポーツ障害(肩関節、膝関節、足関節)