足関節捻挫
足関節捻挫
足関節捻挫とは
足関節を内反(内返し)によって発生する足関節外側の靭帯損傷の事です。
足関節捻挫の原因
スポーツやレクリエーション活動での受傷が多く、種目別ではバスケットボール、サッカーが多いと言われています。
しかし、「路上を歩いていて段差で捻った」や「階段を降りていて捻った」というエピソードで受診される方も非常に多いです。
また、受傷時の肢位は、足関節が底屈・内旋。内返し(回外と言います)。(図)
図:足関節が底屈・内旋。内返しする事で足関節捻挫を受傷する様子
足関節外側靭帯は主に前距腓靭帯・踵腓靭帯・後距腓靭帯で構成されています。(図)
足関節の捻挫は、前距腓靭帯損傷が最も多いです。
図:足関節外速靭帯の解剖
出典:黒川 鉱章ら : 足関節外側靭帯損傷(足関節捻挫)整形外科看護 Vol.27 No.11, 2022.)
足関節捻挫の症状
受傷直後は受傷部位に腫脹・疼痛により、多くは足を引きずるなど歩行に支障をきたします。皮下出血を認めることもあります。
また、関節内に出血が及ぶと足関節全体が腫脹することがあります。
出典:片倉 麻衣ら : 足関節捻挫 整形外科看護 Vol.23 No.11, 2018.
足関節捻挫の検査
どのような外力が強制されたか問診することが大切です。診察では疼痛得・圧痛部位・腫脹の有無を評価します。
重症例では関節の不安定性が生じます。内反・外反、前方、後方引き出しを行い、不安定性の評価、ストレス撮影を行います。
内反ストレス撮影で距骨傾斜角が検測と比べて5度以上の際を認めれば前距腓靭帯損傷、単独損傷、15度以上の差異を認めれば前距腓靭帯・踵腓靭帯の損傷を疑います。
図:内反ストレステスト:X線撮影で距骨傾斜角を計測し、不安定性を評価する
出典:小林秀郎 : 足関節捻挫・靭帯損傷 整形外科看護 Vol.23 No.4, 2018
足部を前方に引き出して側面像撮影を行うことで、前後方不安定性を評価することができます。距骨が脛骨に対して3mm以上前方に移動すれば不安生性陽性と判断します。
足関節捻挫の治療
保存治療
RICE
急性期には腫脹や疼痛の軽減の為に、局所の安静(Rest)・冷却(Icing):圧迫(Compression)・挙上(Elevation)が大切です。
出典:片倉 麻衣ら:足関節捻挫 整形外科看護 Vol.23 No.11, 2018.)
急性期の外側靭帯損傷に対する治療は、基本的には固定を理学療法による保存治療が中心です。足関節の内返し、外返しを制動するためにギプスを着用します。
また、装具を使用して早期から足関節の底背屈を中心とした可動域訓練を開始する場合もあります(機能的保存治療)。
保存治療の成績は概ね良好ですが、一方で不安定性や疼痛が残存してしまう事があり、約30%の患者さんで慢性足関節不安定症に移行してしまいます。
慢性足関節不安定症に移行しないためにも、リハビリテーションプログラムに沿ってリハビリすることが大切です。
リハビリテーションプログラムについて
以下にリハビリテーションプログラムの内容についてご説明いたします。
受傷後に残存する後遺症は主に①関節可動域制限と②バランス機能の低下です。
競技復帰に向けて、それらの機能回復を図っていきます。
①関節可動域訓練
距腿関節の底屈、背屈の可動域制限は、足関節捻挫後に多く見られる障害であり、非荷重位と荷重位での底背屈可動域の評価はリハビリテーション治療を進めていく上でも重要です。
特に距骨のアライメント不良は可動域制限をきたしている可能性があるので、それぞれの原因に対するアプローチが必要です。
②バランストレーニング(固有感覚トレーニング)
関節・靭帯・腱・関節包などは固有感覚受容器を有しており、靭帯損傷後に固有感覚が低下します。
固有感覚トレーニングは足関節捻挫後のリハビリテーションや再発予防のエクササイズとしても推奨されております。
受傷後、患部の疼痛や腫脹が強い場合は、非荷重位から開始し、患部の改善に合わせて荷重位(静的バランス→動的バランス)でのエクササイズに移行していきます。
図:非荷重位での固有感覚トレーニング
図:荷重位での固有感覚トレーニング:不安定な支持基底面でのバランストレーニング
出典:斎田ら:足関節捻挫 Jpn J Rehabil Med 2019 ; 56 :791-795
手術治療
適切な保存治療を行なったにもかかわらず、改善せずに不安定感や疼痛が残存してしまった場合には手術治療が検討されます。
医師より
受傷直後の応急処置としてRICE(安静(Rest)・冷却(Icing):圧迫(Compression)・挙上(Elevation)が提唱されて久しいですが、最近ではRICEでは不十分であり、POLICE(protection : 保護、optimal load : 最適負荷、icing ; 冷却、compression :圧迫、elevation : 挙上) が提唱されており、捻挫の重症度に応じて早期から荷重をかけるようにする事も考慮しております。足関節捻挫後には、固有感覚の低下や足関節底屈・背屈制限などの機能障害が起こることがあるため、それらを考慮してリハビリテーション治療を展開します。
当院での治療方針
当院では単純X線診断に加えて、エコー検査にて靭帯断裂部の不安定性を直接的に評価しております。
図a: 健側の前距腓靭帯:靭帯(▼)は連続性がありfibrillar patternを呈している
図b: 患側の前距腓靭帯:損傷された靭帯(▼)は腫脹し、緊張を失っている
出典:笹原 潤ら:足首の捻挫 治療 Vol.97 No.5, 2015
エコー検査をする事でギプス除去、荷重開始、競技復帰の適切な時期が分かり、適切な判断ができます。
足関節捻挫の予防(再発)
足関節捻挫は再発例も多く、足関節捻挫を繰り返す症例では、慢性足関節不安定症(chronic ankle instability)に移行する例も見られます。
したがって、競技復帰後の再発予防のためにテーピングやサポーターを装着したり、神経金トレーニングを継続して実施したりすることが大切です。
参考文献
Delahunt E, Bleakley CM, Bossard DS, Caulfield BM, Docherty CL, Doherty C, Fourchet F, Fong DT, Hertel J, Hiller CE, Kaminski TW, McKeon PO, Refshauge KM, Remus A, Verhagen E, Vicenzino BT, Wikstrom EA, Gribble PA:Clinical assessment of acute lateral ankle sprain injuries(ROAST): 2019 consensus statement and recommendations of the International Ankle Consortium. Br J Sports Med 2018
黒川 鉱章ら:足関節外側靭帯損傷(足関節捻挫) 整形外科看護 Vol.27 No.11, 2022.
片倉 麻衣ら:足関節捻挫 整形外科看護 Vol.23 No.11, 2018.
小林 秀郎ら:足関節捻挫・靭帯損傷 整形外科看護 Vol.23 No.4, 2018
斎田ら:足関節捻挫 Jpn J Rehabil Med 2019 ; 56 :791-795
笹原 潤ら:足首の捻挫 治療 Vol.97 No.5, 2015