腰椎分離症
腰椎分離症
腰椎分離症とは
腰椎分離症は、発育期に発症する腰椎の椎弓峡部(ついきゅうきょうぶ)の疲労骨折です。主に10代の成長期に発症し、特にスポーツ活動を行う青少年に多く⾒られます。腰椎は5個の骨からなりますが、その中でも第4腰椎(L4)と第5腰椎(L5)に最も多く発症します。
椎弓峡部は解剖学的に最も細く弱い部分であり、腰椎の前屈‧後屈動作を繰り返すことで疲労骨折が生じます。適切な診断と治療により、多くの症例で骨癒合が期待できる疾患です。
原因
遺伝的要因
腰椎分離症は家族内発症例が多く報告されており、遺伝的な素因が強く関与していると考えられています。⼀部では常染⾊体優性遺伝を示唆する報告もあり、家族歴がある場合は特に注意が必要です。
スポーツ活動による要因
以下のような動作を繰り返すスポーツで発症リスクが高くなります。
- 腰椎の反復的な伸展動作:体操、バレエ、フィギュアスケート
- 回旋動作:野球、テニス、ゴルフ
- ジャンプ動作:バスケットボール、バレーボール
- 格闘技:柔道、レスリング
発育期特有の要因
- 骨の成熟度と運動負荷のアンバランス
- 筋力‧柔軟性の未発達
- 成長期における骨の構造的脆弱性
- 体重増加に対する骨格の適応不良
症状
主な症状
- 腰痛:運動時や長時間の活動後に増強
- 腰部伸展時の痛み:腰を反らす動作で痛みが強くなる
- 長時間立位での痛み:立ち続けることで痛みが出現
- スポーツ動作時の痛み:特定の動作で限局性の痛み
注意すべき症状
- 下肢への放散痛やしびれ(分離すべり症への進展の可能性)
- 日常生活動作での持続的な痛み
- 安静時痛の出現
- 腰椎分離症の分類
以下にCTによる分類を示します。完全骨折である進行期までに発見されれば、コルセットによる治療で癒合を得られる可能性があります。ですので、早期発見が重要です。

続いて、初期分離症のMRI(STIR)を示します。早期の分離症の骨髄浮腫(白い矢印)はMRIにて明瞭になり、強い威力を発揮します。このように早期の分離症では椎弓根に骨髄浮腫を認めます。

CTとMRIによる癒合率と癒合期間を示します。初期では90%以上が3ヶ月で癒合します。進行期では癒合期間が6ヶ月と長期になります。さらに、MRIにて骨髄浮腫の有無で癒合率が異なります。終末期では癒合は期待できません。

つく分離とつかない分離
つく分離(骨癒合が期待できる分離)
- 疲労骨折の早期段階
- 適切な治療により骨癒合が期待できる
- 発症から早期に診断‧治療開始することが重要
つかない分離(⾻癒合が困難な分離)
- 偽関節に至った分離症
- 骨硬化像を伴う終末期の状態
- 症状緩和を目的とした治療が中⼼
痛い分離と痛くない分離
分離部周囲にMRIにて水腫を認める場合、疼痛が生じると報告されています。

参考:前田徹, 西良浩一: 発育期腰椎分離症の分類. 脊椎脊髄ジャーナル 33: 369-373, 2020.
痛い分離
- 急性期の炎症を伴う状態(MRIにて椎間関節に及ぶ水腫を認める)
- スポーツ活動や日常生活に支障をきたす
- 積極的な治療介入が必要
痛くない分離
- 無症候性の分離症
- 偶然発見されることが多い
- 定期的な経過観察が重要
すべる分離とすべらない分離
椎体の成長軟骨板が力学的に脆弱だとすべる(腰椎すべり症に発展する)と報告されています。レントゲンにて椎体の成長具合を確認する事で、今後の腰椎すべり症に発展するか予測出来ます(図)。

参考:前田徹, 西良浩一: 発育期腰椎分離症の分類. 脊椎脊髄ジャーナル 33: 369-373, 2020.
すべり症に発展するのは
Cartilaginous stageで分離症になると80%と多いが、Appophyseal stageで分離症になると10%と少ない
Matuation stageでは0%であった
と報告されています。
すべる分離(分離すべり症)
- 分離症に腰椎すべり症を合併
- 神経症状のリスクが高い
- より慎重な治療戦略が必要
すべらない分離
- 単純な分離症
- 比較的予後良好
- 適切な治療により競技復帰が期待できる
大場分類によるCT初見に基づく病期分類



参照:疲労骨折初診時CT所見による病期(進行度)分類―その治癒率と復帰までの期間―. 日本臨床スポーツ医学会誌. 2017; 25(3): 383-389.)
病期別骨癒合率
Stage | 骨癒合率 | 治療期間 | 治療方針 |
---|---|---|---|
StageⅠ | 100% | 2.5ヶ月 | 積極的骨癒合治療 |
StageⅡ | 73.7% | 2.6ヶ月 | 積極的骨癒合治療 |
StageⅢ | 40% | 3.6ヶ月 | 症状改善重視 |
Stage I:片側不全骨折
CT初見
- 片側の椎弓峡部に部分的な骨折線
- 対側は正常または軽微な変化
治療成績
- 骨癒合率:100%
- 最も予後良好な病期
- 適切な治療により確実な骨癒合が期待できる
Stage II:両側不全骨折
CT初見
- 両側の椎弓峡部に部分的な骨折線
- 完全な骨折には至っていない状態
治療成績
- 骨癒合率:73.7%
- 早期診断‧治療により良好な成績
- Stage Iに比べて治療期間がやや延長
Stage III:完全骨折
CT初見
- 片側または両側の完全な骨折線
- より信仰した病期
詳細分類
- Stage IIIa:片側完全骨折
- Stage IIIb:片側完全骨折、対側不全骨折
- Stage IIIc:両側完全骨折
治療成績
- 骨癒合率:40%
- 骨癒合率は低下するが、症状改善は期待できる
- より長期間の治療が必要
検査方法
レントゲン検査(X線検査)
役割
- 初期スクリーニング検査
- 明らかな分離症や骨変化の確認
- 腰椎すべり症の評価
限界
- 早期の疲労骨折は検出困難
- 軽度の分離は見逃される可能性
MRI検査(磁気共鳴画像)
STIR(Short T1 Inversion Recovery)画像
- 椎弓根部の高輝度初見で早期診断が可能
- 炎症反応の評価
- 骨髄浮腫の検出
重要性
- 疲労骨折の早期発見に最も有効
- レントゲンで異常が認められない段階での診断が可能
- 治療効果判定にも有用
CT検査(コンピュータ断層撮影)
矢状断再構成画像
- 骨折線の詳細な評価
- 病期分類の決定
- 骨癒合の判定
横断像
- 従来の分類方法
- 分離部の形態評価
MRI検査による早期診断の重要性
早期診断のメリット
- 高い骨癒合率:早期発見により Stage I での診断が可能
- 短期間での治療完了:3ヶ月以内での競技復帰が期待
- 将来的な合併症予防:分離すべり症への進展を防止
診断の流れ
- 症状と理学初見による疑い
- レントゲン検査でのスクリーニング
- MRI検査による早期診断
- CT検査による病期分類
STIR画像の意義
- 椎弓根部の高輝度初見は疲労骨折の最も早期の画像初見
- 症状改善の指標としても有用
- 治療終了の判定基準
治療⽅法
保存的治療
硬性コルセット療法
- 23時間装用(入力時のみ除去)
- 腰椎の安静保持
- 骨癒合促進効果
スポーツ活動制限
- 完全休止から段階的復帰
- 症状と画像初見に基づく調整
- 個別の復帰プログラム
薬物療法
- 消炎鎮痛剤による症状緩和
- 骨形成促進薬の併用(必要に応じて)
Stage別治療アプローチ
初期段階(Stage I・II)
- 硬性装具装着:3〜6ヶ月
- スポーツ完全休止:最低3ヶ月
- 骨癒合率:初期90%以上、進行期60%(骨髄浮腫あり)/30%(骨髄浮腫なし)
進行期・終末期(Stage III)
- 対症療法中心
- 疼痛管理とリハビリテーション
- 骨癒合率:末期0%
リハビリテーション
体幹筋力強化
- 腹筋‧背筋のバランス改善
- 深層筋(インナーマッスル)の強化
- 段階的な負荷増加
柔軟性改善
- ハムストリングス‧腸腰筋の柔軟性向上
- 腰椎‧骨盤の可動性改善
- ストレッチング指導
動作指導
- 正しい身体の使い方の習得
- スポーツ特異的動作の修正
- 再発予防のための教育
外科的治療
適応
- 保存的治療無効例(6ヶ月以上)
- 高度な分離すべり症
- 神経症状を伴う場合
手術方法
- 椎弓部修復術(若年者)
- 脊椎固定術(成人例)
- 低侵襲手術の適用
治療成績と予後
骨癒合率(大場分類による)
- Stage I:100%
- Stage II:73.7%
- Stage III:40%
スポーツ復帰率
3ヶ月以内の復帰率:90%以上
- 1ヶ月後:20%
- 2ヶ月後:40%
- 3ヶ月後:92.5%
長期予後
- 適切な治療により多くの症例で良好な予後
- 早期診断‧治療開始が最も重要
- 定期的なフォローアップにより再発予防
予後に影響する因子
良好な予後因子
- 早期診断‧治療開始
- Stage I‧IIでの発見
- 治療に対するコンプライアンス良好
- 適切なリハビリテーションの実施
予後不良因子
- Stage IIIでの初診
- 治療開始の遅延
- 不適切な活動継続
- コルセット装用不良
患者さんへのメッセージ
早期受診の重要性
腰椎分離症は「治らない病気」ではありません。早期に適切な診断‧治療を受けることで、90%以上の患者さんが3ヶ月以内にスポーツ復帰を果たしています。腰痛を感じたら、我慢せずに早めに整形外科を受診してください。
治療への取り組み
治療期間中のコルセット装用や活動制限は確かに大変ですが、将来的な競技生活を考えると必要不可欠です。医師‧理学療法士と連携し、正しい治療を継続することが最も重要です。
予防の大切さ
- 適切なウォーミングアップとクールダウン
- バランスの取れた筋力トレーニング
- 柔軟性の維持‧向上
- オーバートレーニングの回避
- 定期的なメディカルチェック
家族の皆様へ
腰椎分離症は遺伝的要因も関与するため、家族歴がある場合は特に注意が必要です。お子さんの腰痛を軽視せず、専門医による適切な評価を受けることをお勧めします。
ご不明な点やご心配なことがございましたら、お気軽に当院スタッフまでご相談ください。皆様の健康で充実したスポーツライフをサポートいたします。
参考文献
前田徹, 西良浩一: 発育期腰椎分離症の分類. 脊椎脊髄ジャーナル 33: 369-373, 2020.
大場俊二, 星川直哉, 藤野毅. 腰椎疲労骨折初診時CT所見による病期(進行度)分類―その治癒率と復帰までの期間―. 日本臨床スポーツ医学会誌. 2017; 25(3): 383-389.