股関節唇損傷
股関節唇損傷
股関節唇損傷とは
股関節唇とは、寛骨臼の縁取るように馬蹄状に存在する繊維軟骨組織です(図)。
図:股関節の解剖
出典:福島 健介ら : スポーツと股関節痛 臨床スポーツ医学 Vol.35 No.1, 2018.
動的な機能として、吸引機能と密閉機能があります。また、股関節唇の神経終末が存在しており、股関節唇の損傷は股関節痛の原因となります。
股関節唇損傷の原因
明らかな契機や外傷歴を指摘できないことが多いです。
股関節唇損傷の症状
多くの患者さんは長時間の立位、坐位時の疼痛、体位変換時の鼠径部痛を訴えます。
また、股関節可動時にクリック(音がする)やキャッチングなどを訴えることもあります。
股関節唇損傷の検査
身体所見のテストとして、以下のものがあります。
前方インピンジメントテスト
股関節屈曲90度で内転内旋ストレスを加えて疼痛の発現を見る
Patrickテスト(FABERテスト)
股関節伸展・外旋・外転位にて疼痛の発現をみる
出典:立石 智彦ら : コンタクトスポーツにおける外傷・障害 関節外科 Vol.33 No.3 (2014)
が代表的なものとして挙げられますが、いずれも特異度が低い検査です。
画像所見として、単純レントゲン検査(FAIのみ)、MRI検査(放射状撮影)があります。特にMRI検査はGolden standardといえる方法です。
単純レントゲン検査
股関節唇損傷自体は単純レントゲンでは捉えられません。
※股関節唇損傷の一因のFAI(Femoroacetabular impingement)について
大腿骨と寛骨臼の衝突(インピンジメント)による痛みが股関節唇損傷を伴い股関節痛を起こすことが提唱されています。
FAIは
- 寛骨臼蓋の骨棘であるpincer type
- 大腿骨頸部の出っ張りであるCAM type
- 混合型
に分類されます。
図:FAIの分類
さらにCAM typeでは、単純レントゲンにてピストルのような特徴的な形状(pistol grip deformity)を同定できます。
図:pistol grip deformity
MRI検査
図:正常股関節:T2*強調像:関節唇は三角形の形状で一様な低信号/関節唇は関節面では関節軟骨と連続している
図:関節唇損傷
左:関節唇の内部に輝度変化認めるが辺縁まで及んでいない(Czerny Stage1)
中央: 関節唇は部分断裂しているが、安定している(Czerny Stage2)
右:関節唇は寛骨臼辺縁から剥がれ、関節唇全体に輝度変化を認める(Czerny Stage3)
出典:下平 浩揮ら : 股関節の画像診断-MRI MB Orthopo. 31(6) Vol.: 37-48, 2018
股関節唇損傷の治療
保存治療
関節唇損傷の所見があったとしても、症状の発現にはoveruseによる股関節周囲筋の硬縮や機能不全が影響していることが多いです。消炎鎮痛薬、筋弛緩薬の投与しながらストレッチ(特に腸腰筋)や股関節周囲・体幹機能訓練を行うことでインピンジメントが軽減されプレーが可能になることも多いです。
手術加療
スポーツ選手に行う場合は低侵襲である関節鏡視下手術が行われます。具体的には関節唇部分切除術、関節唇縫合術、骨棘切除術(FAI合併の場合)があり、それぞれ良好な成績が報告されています。
医師より
股関節唇損傷は診察方法・治療法ともに発展途上の病態です。関節鏡の手術はしっかりと病態を把握し、十分に保存治療を行った上で選手にそのメリット・デメリットを説明し、慎重に行われることが重要です。
参考文献
福島 健介ら : スポーツと股関節痛 臨床スポーツ医学 Vol.35 No.1, 2018.
立石 智彦ら : コンタクトスポーツにおける外傷・障害 関節外科 Vol.33 No.3 (2014)
下平 浩揮ら : 股関節の画像診断-MRI MB Orthopo. 31(6) Vol.: 37-48, 2018