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手根管症候群

手根管症候群

あきらめないで!原因から最新治療まで専門医が徹底解説

朝、指がしびれて目が覚める、ボタンがかけにくい、細かい作業が難しくなった…。そんな手の不調に悩んでいませんか?もしかしたら、その症状は「手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)」が原因かもしれません。特に、妊娠・出産期や更年期の女性、手をよく使う仕事の方に多く見られます。多くの方が「年のせいかな」「使いすぎだから仕方ない」と諦めてしまいがちですが、手根管症候群は正しい知識と適切な治療で改善が期待できる疾患です。この記事では、手根管症候群の正体から、ご自身でできるセルフチェック、病院での検査、そして手術をしない最新の治療法まで、整形外科専門医が学術論文の知見に基づいて、わかりやすく解説します。あなたのつらい症状の原因と、これからの治療の選択肢がきっと見つかるはずです。

手根管症候群とは?その正体とメカニズム

手根管症候群は、手首にある「手根管」というトンネルの中で、正中神経(せいちゅうしんけい)という神経が圧迫されることで生じる疾患です。
手根管は、手首の骨と横手根靭帯(おうしゅこんじんたい)という強靭なバンドで囲まれた狭い空間です。この中を、指を曲げるための9本の腱と正中神経が通っています。何らかの原因でこのトンネル内の圧力が高まると、最も柔らかい組織である正中神経が圧迫され、しびれや痛み、指の動かしにくさといった症状が現れるのです。

原因は完全には解明されていませんが、女性ホルモンの乱れによる腱のむくみ(妊娠・出産期、更年期)、手首の骨折などの怪我、仕事やスポーツによる手の使いすぎ、透析などが関係していると考えられています。

図:正中神経と手根管
出典:佐藤, 和毅. 「手根管・正中神経」. 整形外科看護 27, no. 2 (2022)

図:手首の断面図:手根管の構造(骨、靭帯、腱、正中神経の位置関係)
出典:佐藤, 和毅. 「手根管・正中神経」. 整形外科看護 27, no. 2 (2022)

手根管症候群の症状

もしかして手根管症候群? ご自身でできる症状チェックと受診の目安

手根管症候群の症状は、親指、人差し指、中指、そして薬指の親指側の半分に現れるのが特徴です。小指には症状が出ないことがほとんどです。

出典:多田, 薫. 「手根管開放術での合併症(血腫・神経損傷)」. 整形外科看護 30, no. 4 (2025)

代表的な症状チェック(ファーレンテスト)

図:ファーレンテスト
出典:佐藤, 和毅. 「手根管・正中神経」. 整形外科看護 27, no. 2 (2022)
  1. 胸の前で、両方の手の甲を合わせます。
  2. 手首を直角に曲げたまま、その状態を1分間キープします。
  3. 指先にしびれや痛みが増強する場合、手根管症候群の可能性があります。

このような症状チェックで陽性になる場合や、以下のような症状が続く場合は、一度整形外科を受診することをお勧めします。

  • 朝方や夜間に強いしびれや痛みで目が覚める。
  • 手を振ったり、指を曲げ伸ばししたりすると症状が少し楽になる。
  • 親指の付け根の筋肉(母指球筋)が痩せてきた。
  • 細かいもの(小銭、ボタンなど)がつまみにくくなった。

手根管症候群の検査

クリニックでは、まず丁寧な問診で症状の出方や生活背景をお伺いし、神経がどこで障害されているかを探すための理学所見(医師による診察)を行います。ティネルサイン(手首を叩くと指先にしびれが響く)などを確認します。確定診断のためには、客観的な検査が必要です。X線(レントゲン)検査では、骨折など他の原因がないかを確認しますが、神経そのものは写りません。

【特集】超音波(エコー)で見る、あなたの身体の中:診断から最新治療まで

近年、手根管症候群の診断において、超音波(エコー)検査の有用性が非常に高まっています。エコー検査は、放射線被曝の心配がなく、リアルタイムで体の中を観察できる安全な検査です。手根管症候群の診断では、エコーを用いることで、圧迫されて腫れている正中神経を直接見ることができます。神経の断面積を計測し、正常範囲を超えていないかを確認することで、客観的な診断が可能になります。また、手根管内の腱の炎症や、ガングリオンなどの圧迫の原因となる他の病変がないかも同時に確認できます。

図:エコー(超音波)で観察した、手根骨で正中神経(水色の点線で囲った領域)が圧迫されている様子
出典:Hashem, Engi Yousry,et al. “Ultrasound-Guided Pulsed Radiofrequency Versus Perineural Platelet Rich Plasma Injection for the Treatment of Idiopathic Carpal Tunnel Syndrome: A Prospective Randomized Controlled Study.” BMC Anesthesiology 25, no. 1 (2025): 406.

手根管症候群の治療

治療法は、症状の重症度やライフスタイルに合わせて選択します。

保存療法

安静・装具療法

手首を安静に保つため、夜間や作業中に装具(スプリント)を装着します。手首を中間位に固定することで、手根管内の圧力を下げ、神経への負担を軽減します。

薬物療法

ビタミンB12製剤や、痛みが強い場合には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服や外用薬(湿布・塗り薬)を使用することがあります。

リハビリテーション

神経の滑走性(動き)を改善するためのストレッチや、腱の動きをスムーズにする運動療法が有効な場合があります。ただし、自己流で行うと症状を悪化させる可能性もあるため、専門家の指導のもとで行うことが重要です。

エコーガイド下注射

エコーで神経やその周りの組織を直接見ながら注射を行う、非常に精度の高い治療法です。

ステロイド注射

炎症や腫れが強い場合に、手根管内に少量のステロイドを注射します。神経周囲の炎症を強力に抑え、症状を劇的に改善させることがあります。ただし、効果は一時的である場合や、繰り返し行うことで腱を傷めるリスクも指摘されています。

エコーガイド下ハイドロリリースとは?メスを使わない新しい選択肢

ハイドロリリース(Hydro-release)は、近年注目されている新しい治療法です。これは「生理食塩水などの薬液を使って、癒着した組織を剥がす(リリースする)」手技です。手根管症候群では、長期間の圧迫により、正中神経とその周りにある腱や靭帯が癒着してしまっていることが多く、これが神経の動きを妨げ、症状を悪化させる一因となっています。エコーガイド下ハイドロリリースでは、エコーで神経と周囲の組織をリアルタイムに観察しながら、注射針の先を正確に癒着部分に進めます。そして、薬液(主に生理食塩水や局所麻酔薬)を注入し、その水圧で神経と周囲の組織を優しく剥がしていきます。メスを使わないため、体への負担が少なく、外来で短時間で行うことが可能です。癒着が剥がれることで、神経の滑走性が改善し、血流も回復するため、しびれや痛みの根本的な改善が期待できます。

図:エコー下で正中神経周囲をハイドロリリースする様子
図:A/B=正中神経の深層(A)、浅層(B)に針があり、癒着を剥がしている
* MN: 正中神経、 * アスタリスク(\*): 注入物、TCL: 横手根靭帯、FCR: 橈側手根屈筋腱、FPL: 長母指屈筋腱、S: 浅指屈筋腱、 P: 深指屈筋腱、SCA: 舟状骨、CAP: 有頭骨)
出典:Wang, Yali, et al. “Ultrasound-Guided Triamcinolone Acetonide Hydrodissection for Carpal Tunnel Syndrome: A Randomized Controlled Trial.” Frontiers in Medicine 8 (2021): 742724.

手術療法

保存療法で改善しない場合や、母指球筋の痩せが進行している場合、明らかな腫瘤などによる圧迫がある場合には、手術が検討されます。最も一般的なのは、横手根靭帯を切開して手根管内の圧力を下げる「手根管開放術」です。近年では、内視鏡を用いた小さな傷で行う方法も普及しています。

手根管症候群の予防、治療期間と今後の見通し

治療期間は重症度によって様々です。軽症であれば、数週間の保存療法で改善することもあります。ハイドロリリースやステロイド注射で症状が大きく改善する方も多くいます。手術に至った場合でも、術後のリハビリを経て、数ヶ月で日常生活に復帰できることがほとんどです。

予防のためには、長時間のパソコン作業や手作業の合間に、手首のストレッチを取り入れることが有効です。また、手首に負担のかからない姿勢を心がけることも大切です。

つらい手根管症候群の症状をあきらめないで、専門医にご相談ください

手のしびれや痛みは、日常生活の質(QOL)を大きく低下させます。しかし、手根管症候群は「年のせい」でも「治らない病気」でもありません。正確な診断に基づき、装具療法、リハビリテーション、そしてエコーガイド下ハイドロリリースのような新しい治療法まで、様々な選択肢があります。この記事で紹介したセルフチェックで思い当たる節があった方、長引く手の不調にお悩みの方は、ぜひ一度、整形外科専門医にご相談ください。あなたの症状に合った最適な治療法を一緒に見つけていきましょう。

監修者情報

桃谷うすい整形外科 院長 臼井 俊方

参考文献

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Wu, Y. T., Ho, T. Y., Chou, Y. C., Ke, M. J., Li, T. Y., & Chen, L. C. (2017). Six-month efficacy of perineural dextrose injection for carpal tunnel syndrome: A prospective, randomized, double-blind, controlled trial. *Mayo Clinic Proceedings*, 92(8), 1179–1189.

Hashem, Engi Yousry, Faten Saeed Shamandy, Ahmed Fawzy Elmulla, and Magdy AbdelAziz Mansour. “Ultrasound-Guided Pulsed Radiofrequency Versus Perineural Platelet Rich Plasma Injection for the Treatment of Idiopathic Carpal Tunnel Syndrome: A Prospective Randomized Controlled Study.” BMC. Anesthesiology 25, no. 1 (2025): 406.

Wang, Yali, et al. “Ultrasound-Guided Triamcinolone Acetonide Hydrodissection for Carpal Tunnel Syndrome: A Randomized Controlled Trial.” Frontiers in Medicine 8 (2021): 742724.

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