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反復性肩関節脱臼

反復性肩関節脱臼

なぜ肩の脱臼は癖になる?反復性肩関節脱臼の原因と治療法を専門医が解説|手術を避けたい方へ

「一度スポーツで肩を脱臼してから、ふとした動作で肩が外れそうな不安感がある」
「着替えや寝返りの際に、肩がゴリッと嫌な音を立てて亜脱臼する」
「何度も脱臼を繰り返していて、思い切り腕を動かすのが怖い」

このような、一度外れた肩が「癖」になってしまう状態に悩んでいませんか。
その症状は、まさに「反復性肩関節脱臼」と呼ばれる状態です。

特に、ラグビーや柔道などのコンタクトスポーツや、野球などの投球動作を伴うスポーツをされている若い世代に多く見られます。

肩が外れやすいという不安は、日常生活やスポーツ活動において大きな制約となります。しかし、なぜ脱臼は繰り返してしまうのでしょうか。そして、手術をせずに治す方法はあるのでしょうか。

この記事では、整形外科の専門医の視点から、反復性肩関節脱臼が起こる根本的なメカニズム、ご自身でできる危険な動作のチェック、専門的な検査方法、そしてリハビリテーションを中心とした保存療法から手術療法まで、あなたの疑問に答えるための情報を網羅的に解説します。もう「肩が外れるかも」と不安に思う日々を送らないために、まずはご自身の状態を正しく理解することから始めましょう。

反復性肩関節脱臼とは?その正体とメカニズム

反復性肩関節脱臼を理解するためには、まず肩関節の構造を知る必要があります。肩関節は、上腕骨の先端にあるボール状の「骨頭(こっとう)」が、肩甲骨にあるお皿のような「関節窩(かんせつか)」にはまり込む形をしています。この構造は、腕を様々な方向に大きく動かすことを可能にしている一方で、構造的に不安定で脱臼しやすいという側面も持っています。

この不安定な関節を支えているのが、「関節唇(かんせつしん)」や「関節包(かんせつほう)」といった軟部組織です。関節唇は、関節窩の縁を取り囲むように付着しており、お皿を深くすることで骨頭が外れないように「防波堤」の役割を果たしています。

最初の脱臼(初回脱臼)の際に、強い外力によって骨頭が関節窩から前方に外れると、この関節唇の前方部分が引き剥がされてしまいます。この特徴的な損傷を「バンカート損傷(Bankart lesion)」と呼びます。一度この「防波堤」が壊れてしまうと、骨頭をせき止めるものがなくなるため、些細な外力や特定の腕の動きだけで簡単に脱臼を繰り返すようになってしまうのです。これが、反復性肩関節脱臼の正体です。

正常な肩関節
関節包と靭帯の構造
関節唇の形状
図:損傷した肩では前方の防波堤がなくなり、骨頭が外れかかっている
出典:藤澤隆弘. 2024. 「反復性肩関節脱臼の患者さんでも内旋位装具と外旋位装具を使い分けるのはなぜ?」. 整形外科看護 29(1)

もしかして反復性肩関節脱臼?ご自身でできる症状チェックと受診の目安〜

反復性肩関節脱臼の症状は、実際に肩が外れてしまうことだけではありません。

アプリヘンション・テスト(Apprehension test)/不安感

腕を後方に広げる動作(例:ボールを投げる、髪を洗う、電車のつり革を持つ)をした際に、「肩が外れそうだ」という強い不安感に襲われます。これが最も特徴的な症状です。

図:多動的に外転、外旋させて脱臼不安感の増強を見る(アプリヘンション・テスト)
出典:菊川和彦. 2013. 反復性肩関節脱臼. 『整形外科看護』18(3): 233.

脱臼・亜脱臼

実際に肩関節が完全に外れたり(脱臼)、外れかかったり(亜脱臼)します。ゴリッ、ガクッという音や感覚を伴うこともあります。

痛みやしびれ

脱臼や亜脱臼に伴って、肩周りに痛みや腕へのしびれが生じることがあります。

筋力低下

肩を動かすことへの恐怖心から、腕の力が入りにくくなることがあります。

セルフチェックの目安

ご自身で、ゆっくりと腕を横から挙げ、肘を90度に曲げた投球動作のような形をしてみてください。この時に、肩の前方に不安感や抜けそうな感覚があれば、反復性肩関節脱臼の可能性が高いと考えられます。ただし、無理に行うと本当に脱臼する危険があるため、慎重に行ってください。少しでも不安を感じたら、すぐに中止しましょう。

このような症状に心当たりがある場合は、適切な診断と治療方針の決定のために、整形外科の受診を強くお勧めします。

反復性肩関節脱臼の検査

クリニックでは、問診や理学所見に加えて、各種画像検査を用いて正確な診断を行います。

問診・理学所見

いつ、どのようにして最初の脱臼が起こったか、その後何回くらい脱臼しているか、どのような動作で不安感が出るかなどを詳しくお伺いします。また、医師が徒手的に肩の不安定性を評価するテスト(アプレーヘンションテストなど)を行います。

画像検査

X線(レントゲン)検査

脱臼の方向を確認するほか、骨頭側(ヒル・サックス損傷)や関節窩側(骨性バンカート損傷)に骨の損傷がないかを評価します。反復性肩関節脱臼の診断には必須の検査です。

図:前方脱臼のレントゲン像
図:前方脱臼のCT像

MRI検査

関節唇や関節包といった軟部組織の状態を詳しく評価するために極めて有用です。特に、造影剤を関節内に注入してから撮影するMRアースログラフィ検査は、バンカート損傷の範囲や程度を非常に鮮明に描き出すことができます。

図:MRI像(Hill-sacks損傷/Bankart損傷)
出典: 天野大介. 2023. 「不安定肩」. 『臨床画像』39(1)

反復性肩関節脱臼の治療|あなたに合った治療プランを見つける

治療法は、年齢、活動レベル、脱臼の頻度、そして患者さんご自身の希望を考慮して決定します。大きく分けて、保存療法と手術療法があります。

保存療法(リハビリテーション)

「手術をしたくない」と考える方にとって、中心となるのがこの保存療法です。反復性肩関節脱臼は、関節唇という「静的安定化機構」が壊れた状態です。そこで、リハビリテーションでは、肩周りの筋肉(特に腱板や肩甲骨周囲筋)を鍛えることで、「動的安定化機構」を強化し、壊れた静的安定化機構の役割を補うことを目指します。

具体的には、ゴムチューブなどを使った筋力強化訓練(インナーマッスルトレーニング)が中心となります。ただし、自己流で行うと症状を悪化させる危険もあるため、必ず専門家の指導のもとで行うことが重要です。

図:チューブトレーニング(インナーマッスルの強化)の様子

エコーガイド下注射について

反復性肩関節脱臼の根本的な原因である関節唇の損傷を、注射だけで治すことは困難です。しかし、脱臼や亜脱臼を繰り返すことで肩周りの組織が炎症を起こし、強い痛みが生じている場合や、関節が硬くなってリハビリテーションに支障をきたしている場合には、その炎症や痛みを抑える目的で、エコーガイド下に注射を行うことがあります。これにより、痛みをコントロールし、より効果的なリハビリテーションへ移行することが可能になります。

手術療法

保存療法を行っても脱臼が頻繁に起こる場合や、スポーツへの完全復帰を強く希望する若い年齢の患者さんには、手術療法が推奨されます。現在主流となっているのは、関節鏡を用いた「鏡視下バンカート修復術」です。これは、数カ所の小さな切開からカメラや手術器具を挿入し、剥がれてしまった関節唇を元の位置に縫い付ける手術です。身体への負担が少なく、術後の回復も早いのが特徴です。

反復性肩関節脱臼の予防、治療期間と今後の見通し

反復性肩関節脱悠の最も効果的な予防は、最初の脱臼を起こした際に、適切な初期治療と十分なリハビリテーションを行うことです。

治療期間は、保存療法の場合、筋力が安定するまでに3ヶ月~6ヶ月程度を要します。手術療法の場合、術後約3~4週の固定期間を経て、可動域訓練、筋力訓練と段階的にリハビリを進め、スポーツ復帰には約6ヶ月以上かかるのが一般的です。

適切な治療選択を行えば、多くの患者さんが脱臼の不安から解消され、日常生活やスポーツ活動に復帰することが可能です。

図:外旋にて3週間固定
出典:藤澤隆弘. 2024. 「反復性肩関節脱臼の患者さんでも内旋位装具と外旋位装具を使い分けるのはなぜ?」. 整形外科看護 29(1)

つらい肩の不安感をあきらめないで、専門医にご相談ください

反復性肩関節脱臼は、初回の脱臼時に壊れてしまった関節唇(バンカート損傷)が原因で、肩が外れやすくなる状態です。「また外れるかもしれない」という不安感が最大の特徴です。

治療の基本は、リハビリテーションで肩周りの筋肉を鍛え、不安定性をカバーすることです。手術に抵抗がある方でも、この保存療法で症状が安定するケースは少なくありません。手術は、保存療法で改善しない場合や、高いレベルでのスポーツ復帰を目指す場合に検討される有効な治療法です。

どの治療法が最適かは、あなたの年齢、活動性、そして目標によって異なります。X線やMRI、超音波(エコー)などの検査でご自身の肩の状態を正確に把握し、専門医と十分に相談することが、不安解消への第一歩です。

監修者情報

桃谷うすい整形外科 院長 臼井 俊方

参考文献

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Buss, D. D., et al. “Nonoperative management for in-season athletes with anterior shoulder instability.” *The American journal of sports medicine* 32, no. 6 (2004): 1430-1437.

Cole, B. J., and R. F. Warner. “Arthroscopic versus open Bankart repair for traumatic anterior shoulder instability.” *Clinics in sports medicine* 24, no. 1 (2005): 49-65.

Porcellini, G., et al. “Ultrasound in shoulder instability.” *Journal of Orthopaedics and Traumatology* 10, no. 4 (2009): 165-171.

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