ばね指
ばね指
ばね指とは
手指の運動は主に屈筋腱(屈曲の力源)と伸筋腱(伸展の力源)が関与しています。屈筋腱の周りには所々に”腱鞘“というトンネルがあり、屈筋腱の浮き上がりを防ぐことによって効率的に指へ力を伝えています。
出典: 長尾 聡哉ら : ばね指 (手指屈筋腱狭窄性腱鞘炎) 整形外科看護 Vol.20 No.12, 2015.
手指の酷使に伴い、屈筋腱と腱鞘、特に負荷のかかりやすいA1腱鞘の間に炎症が起き、疼痛を引き起こします。このような病態を狭窄性腱鞘炎といいます。
炎症が慢性化するに従い、腱実質の腫脹+腱鞘の肥厚が生じ、腫大した腱実質が肥厚した腱鞘を通過する際に抵抗が増すことによって引っかかる病態をばね指と言います。
40-60歳代、男女比が1:6で女性が多く、妊産婦にもしばしば発症し、女性ホルモンとの関与も指摘されています。母指が最も多く、続いて中指、環指の順で多いと言われています。
ばね指の原因
原因はさまざまですが、一般的には手の使い過ぎ(酷使)によって滑膜で炎症が起きて発症すると言われています。
また、背景として糖尿病や脂質異常症、関節リウマチとの関連性も指摘されています。女性の場合、妊娠中、産後、更年期など、ホルモンバランスが大きく変化する時期は、血行不良によって腱鞘が狭窄するため、ばね指を発症するリスクが高くなると言われています。
ばね指の症状
「指が痛くて動かしづらい」「物が握れない」「指がカクカクする」という症状が多いです。
手掌の腱鞘の狭窄部位(A1 pully )の圧痛が特徴的です。
ばね指の検査
問診と触診で指の痛みや腫れ、ばね現象(弾発現象)の有無を確認して診断します。
超音波検査で腱鞘の肥厚を確認することもあります。
また、骨の異常の有無や他の疾患との鑑別目的に、レントゲン検査やMRI検査を行うこともあります。
ばね指の治療
ばね指の治療では、①指の可動域を回復させることと②痛みを抑えることが中心となります。
保存療法
薬物療法
炎症に対する非ステロイド性消炎鎮痛薬、湿布などを使用します。
注射
物を持てない、仕事ができないといったように日常生活への支障が大きくなっている場合、ばね現象を繰り返している場合には、ステロイド注射が有効です。高い即効性を得た上で、無理なくリハビリを進めます。
短期間での繰り返しのステロイド注射は腱を脆くさせ、腱断裂のリスクを増やしてしまう為、施行出来ません。投与感覚は2週間以上とし、複数回注射での無効例は、手術療法を検討します。
図:超音波ガイド下に腱鞘内注射をしているところ
出典: 長尾 聡哉ら : ばね指 (手指屈筋腱狭窄性腱鞘炎) 整形外科看護 Vol.20 No.12, 2015.
また、保存治療には他に、温浴中の自他動マッサージや装具療法があります。
手術療法
薬物療法、ステロイド注射などを行っても十分な効果が得られない場合、再発を繰り返す場合には、手術を検討します。
なお手術が必要になった場合には、すみやかに提携する病院へとご紹介します。
ばね指の予防
ばね指は、完治までに時間がかかることが多くなります。そのため、まずは発症を予防することが大切です。
また一度発症し完治した場合も、再発を防ぐため、以下のような対策を講じることをおすすめします。
手の酷使を避ける
原因となる手の使い過ぎを避けることが第一です。
仕事や家事などで手を使う時間を短くする、ということは難しいかもしれません。しかし、手の負担を軽減する道具、グッズなどがあれば、活用してみることをおすすめします。
冷却・温熱
手を使い過ぎて痛みが出始めたというとき、熱感があるときには、冷却(アイシング)がおすすめです。保冷剤をタオルで覆ったもの、氷嚢などで、患部を冷やしましょう。
一方で、手指のこわばりがあるときには、温めることで血行が改善し、痛みが和らぎます。
ストレッチ
ストレッチで腱の緊張、腱鞘との摩擦軽減や、血行を改善することで、ばね指の予防効果が期待できます。
参考文献
津下健哉:狭窄性腱鞘炎.手の外科の実際. p341-343,南江堂,第7版,2011.
Shinomiya R Sunagawa,T.,Nakashima,Y.,et al. Impact of Corticosteroid Injection Site on the Treatment Success Rate of Trigger Finger: A Prospective Study Comparing Ultra- sound-Guided True Intra-Sheath and True Extra-Sheath lnjections. Ultra-sound Med Biol. 42:2203-2208,2016.