膝関節内側側副靱帯損傷
膝関節内側側副靱帯損傷
膝の内側の痛み、あきらめないで!膝関節内側側副靱帯(MCL)損傷の原因から最新治療まで専門医が解説
「スポーツ中に膝をひねってから、内側が痛くて歩きにくい…」
「急に方向転換したときに、膝が〝ゴリッ〟と鳴った気がする」
「膝の内側が腫れていて、不安定な感じがして怖い」

このような膝の内側の急な痛みや不安定感に、多くの方が悩まされています。その症状、もしかしたら膝関節内側側副靱帯(MCL)損傷かもしれません。
MCL損傷は、スポーツ外傷の中でも特に頻度が高く、適切な初期対応と治療がその後の回復を大きく左右します。しかし、多くの情報が溢れる中で、「自分の膝に何が起きているのか」「本当に手術が必要なのか」「もっと体に負担の少ない治療法はないのか」といった不安や疑問を感じている方も少なくないでしょう。
この記事では、整形外科の専門的な立場から、世界の最新学術論文の知見に基づき、MCL損傷の正体から、ご自身でできる症状チェック、クリニックでの正確な診断方法、そしてメスを使わない最新の治療法まで、あなたの疑問と不安を解消するために、包括的かつ分かりやすく解説します。
この記事を読み終える頃には、ご自身の症状を正しく理解し、あなたに合った最適な治療法を見つけるための一歩を踏み出せるはずです。
膝関節内側側副靱帯(MCL)損傷とは?
膝関節は、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)をつなぐ、体の中で最も大きな関節の一つです。MCLは、この膝関節の内側にあって大腿骨と脛骨を結びつけ、膝が外側に開く(外反する)のを防ぐ、強靭な帯状の組織です。

MCL損傷の原因
MCL損傷は、主に膝の外側から内側に向かう強い力(外反力)が加わることで発生します。ラグビーやサッカーでのタックル、スキーでの転倒、バスケットボールやバレーボールでのジャンプ着地時の膝のひねり(外反・外旋)などが典型的な原因です。
主な症状
膝の内側の痛み(圧痛)
靱帯が付着している大腿骨側や脛骨側、または靱帯そのものを押すと強い痛みを感じます。
腫れ
関節の内側が腫れ、熱を持つことがあります。
不安定感
歩行時や方向転換時に、膝がガクッと崩れるような、頼りない感覚を覚えます。
可動域制限
痛みや腫れのために、膝の曲げ伸ばしが困難になります。
損傷の程度は、軽度(I度:微細な断裂)、中等度(II度:部分断裂)、重度(III度:完全断裂)の3段階に分類され、症状の強さもこれに比例します。
発症しやすい人
コンタクトスポーツ(ラグビー、サッカー、アメリカンフットボール、柔道など)の選手や、急な方向転換やジャンプを伴うスポーツ(スキー、バスケットボール、バレーボールなど)を行う方に多く見られます。
もしかしてMCL損傷?ご自身でできる症状チェックと受診の目安
膝の内側に痛みを感じたら、以下の点を確認してみてください。ただし、セルフチェックはあくまで目安です。正確な診断のためには、必ず専門医の診察を受けてください。
セルフチェック法
痛みの場所の確認
膝の内側、骨の出っ張り(大腿骨内側上顆、脛骨内側)の周辺を押してみて、特に強く痛む場所があるか確認します。
不安定感の確認
軽く膝を曲げた状態で、ゆっくりと体重をかけてみます。その際に膝が内側にグラつく、抜けるような感覚はありませんか?
受診の目安
以下の症状が一つでも当てはまる場合は、放置せずに整形外科を受診してください。
- 明らかに膝の外側から強い衝撃を受けた。
- 受傷時に「ブチッ」「ゴリッ」といった断裂音を感じた。
- 痛みで体重をかけることができない、歩行が困難。
- 膝が明らかに腫れており、曲げ伸ばしができない。
- 膝がグラグラして、自分の意思とは関係なく崩れてしまう感じがする。
早期の的確な診断と治療が、後遺症を防ぎ、スムーズな回復への鍵となります。
クリニックで行うMCL損傷の正確な診断
クリニックでは、以下の手順で正確な診断を行います。
問診
いつ、どこで、どのようにして痛めたか、どのような症状があるかなどを詳しくお伺いします。
理学所見(医師による診察)
医師が膝を直接触診し、痛みの場所、腫れの程度、不安定性の有無を確認します。特に外反ストレステストは重要な診察手技です。医師が患者様の膝を少し曲げた状態と完全に伸ばした状態で、外反方向へのストレスを加え、MCLの不安定性を評価します。
画像検査
X線(レントゲン)検査
主に骨折の有無を確認するために行います。特に、靱帯が骨に付着する部分の剥離骨折を除外するために重要です。
MRI検査
靱帯や半月板、軟骨などの軟部組織を詳細に描出できる検査です。MCL損傷の確定診断、損傷の程度(I〜III度)、他の靱帯(前十字靱帯など)や半月板の合併損傷の有無を評価するために極めて有用です。
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近年、整形外科領域で超音波(エコー)の活用が急速に進んでいます。X線やMRIにはない、エコーならではの大きなメリットがあるからです。
エコー検査のメリット
リアルタイム性
膝を動かしながら、靱帯や周辺組織の状態をリアルタイムで観察できます。これにより、ストレスをかけた際の靱帯の緩み具合などを動的に評価できます。
非侵襲性・低負担
放射線被曝の心配がなく、体に害はありません。小さなお子様や妊娠中の方でも安心して検査を受けられます。また、MRIのような閉所での検査が苦手な方でも大丈夫です。
高い分解能
最新の高周波プローブを用いることで、数ミリ単位の微細な組織の損傷まで詳細に観察することが可能です。
MCL損傷の治療法~あなたに合った治療プランを見つける~
MCL損傷の治療は、損傷の程度や活動レベルに応じて、主に保存療法が選択されます。手術が必要となるケースは限定的です。
保存療法
安静(RICE処置)
受傷直後は、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)が基本です。
装具療法
膝の安定性を高めるために、サポーターやヒンジ(蝶番)付きの装具を装着します。特にII度以上の中等度損傷では、外反ストレスを防ぐために装具が重要です。
薬物療法
痛みを和らげるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服や外用薬を使用します。
リハビリテーション
ストレッチ・可動域訓練
痛みが落ち着いたら、徐々に膝の曲げ伸ばしの角度を広げていきます。
筋力トレーニング
膝を支える太ももの筋肉(大腿四頭筋、ハムストリングス)を中心に、筋力強化を図ります。
手術療法
III度の完全断裂で、外反不安定性が非常に強い場合や、前十字靱帯(ACL)など他の組織の損傷を合併している場合に検討されます。
手術には、断裂した靱帯を縫合する方法や、他の腱を移植して再建する方法があります。
MCL損傷の治療期間と今後の見通し
治療期間は損傷の程度によって大きく異なります。
I度(軽症) | 1〜3週間程度でスポーツ復帰が可能になることが多いです。 |
II度(中等症) | 4〜8週間程度の治療期間を要します。 |
III度(重症) | 保存療法では2〜3ヶ月、手術療法の場合は半年以上のリハビリ期間が必要になることもあります。 |
日常生活で気をつけること
治療中は、医師や理学療法士の指示に従い、膝に負担をかける動作を避けることが重要です。また、筋力低下を防ぐために、許可された範囲でのトレーニングを継続することが再発予防につながります。
つらい膝の内側の痛みをあきらめないで、専門医にご相談ください
膝関節内側側副靱帯(MCL)損傷は、適切な診断と治療を行えば、多くの場合良好な回復が期待できる疾患です。しかし、自己判断で放置したり、不適切な治療を続けたりすると、痛みが長引いたり、膝の不安定感が後遺症として残ってしまう可能性もあります。
もしあなたが膝の内側の痛みや不安定感に悩んでいるなら、決して一人で抱え込まず、まずは整形外科の専門医にご相談ください。あなたの症状を正確に診断し、ライフスタイルや目標に合わせた最適な治療プランを一緒に見つけていきましょう。
監修者情報
桃谷うすい整形外科 院長 臼井 俊方
参考文献
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