ゴルフ肘
ゴルフ肘
ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)の治し方とは?原因からストレッチ、注射治療を解説

ペットボトルの蓋を開けようとすると肘の内側に痛みが走る、ゴルフや野球のスイングで肘に激痛が…、重いフライパンを持つのがつらい。
その症状、もしかしたら「上腕骨内側上顆炎」、通称「ゴルフ肘」かもしれません。
ゴルフ肘という名前から、ゴルファーだけの病気だと思われがちですが、実際にはテニスや野球などのスポーツ選手、大工仕事や長時間のパソコン作業をされる方、さらには主婦の方まで、手をよく使う多くの人々に発症する可能性があります。
ここでは、つらいゴルフ肘の正体とその原因、ご自身でできる症状チェック、そして最新の治療法まで、専門医の視点から詳しく解説します。手術はしたくない、早く痛みから解放されたい、と願うあなたのための情報を網羅しています。
上腕骨内側上顆炎とは?その正体とメカニズム

上腕骨内側上顆炎は、手首を手のひら側に曲げる筋肉(前腕屈筋群)や、指を曲げる筋肉の付け根にある腱が、肘の内側の骨の出っ張り(上腕骨内側上顆)の部分で炎症や微細な断裂を起こし、痛みを引き起こす疾患です。近年の研究では、単なる炎症(-itis)ではなく、腱そのものが使いすぎによって傷んで変性する「腱症(tendinosis)」の状態が本体であると考えられています。
ゴルフのスイングのインパクトの瞬間や、野球の投球動作、工具を使った作業などで手首や指に繰り返し負担がかかることで、腱の付け根に微細な損傷が蓄積し、痛みが生じます。

図:上腕骨内側上顆とそこに付着する手首を曲げる筋肉(前腕屈筋群①橈側手根屈筋、②円回内筋、③尺側手根屈筋、④長掌筋)
出典:赤羽勝司. (2015). 上腕骨外側・内側上顆炎の徒手検査. MB Orthopaedics, 28(9), 1-7.
もしかしてゴルフ肘?ご自身でできる上腕骨内側上顆炎の症状チェックと受診の目安
上腕骨内側上顆炎の主な症状は、肘の内側から前腕にかけての痛みです。
- 肘の内側の骨の出っ張り(内側上顆)を押すと強い痛みがある。
- 物をつかんで持ち上げる、タオルを絞る、ドアノブを回すといった動作で痛みが悪化する。
- 手首を手のひら側に曲げる動きに抵抗を加えると痛みが誘発される。
- 症状が進行すると、安静にしていてもジンジンと痛むことがある。
- 場合によっては、小指や薬指にしびれを感じることもある(近くを走る尺骨神経が刺激されるため)。
ご自身でできる簡単なセルフチェックとして、「ゴルフ肘テスト」があります。肘を伸ばした状態で、手のひらを上に向け、反対の手で手首を甲側にゆっくりと反らしてみてください。この時に肘の内側に痛みが出れば、上腕骨内側上顆炎の可能性が高いです。
これらの症状により、日常生活や仕事、趣味のスポーツに支障が出ている場合は、我慢せずに整形外科を受診しましょう。
上腕骨内側上顆炎の検査
クリニックでは、まず問診でどのような動作で痛むか、職業やスポーツ歴などを詳しくお伺いします。その後、医師が肘を触診し、痛みの場所や程度を確認したり、セルフチェックで紹介したようなテスト(上腕骨内側上顆炎テスト)を行ったりして診断します(理学所見)。

図:上腕骨内側上顆炎テスト
多動的に前腕を回外、手関節伸展、ゆっくり肘関節を伸展させる→上腕骨内側上顆に疼痛が出現すれば陽性
出典:村田景一. (2020). 肘痛に対する徒手検査法 (2) 中高年の肘痛に対する徒手疼痛誘発検査法. 関節外科, 39(1), 48-54.
多くの場合、これらの問診と理学所見で診断が可能ですが、他の病気との鑑別や重症度の評価のために画像検査を行うことがあります。
X線(レントゲン)検査
骨の変形や骨折など、他の異常がないかを確認します。腱そのものは写りませんが、石灰化(腱の中にカルシウムが沈着すること)が見られることもあります。

図:内側上顆に石灰化を認める
出典:落合信靖. (2024). 上腕骨外側・内側上顆炎の病態について. 関節外科, 43(8), 7-12.
MRI検査
腱の断裂の程度や炎症の状態を詳細に評価できますが、必須の検査ではありませんが、T2強調像で高輝度領域を認めることがあり、鑑別疾患である尺側側副靱帯損傷、骨軟骨損傷との鑑別に有効です。

図:内側上顆にT2高輝度病変を認める
出典:落合信靖. (2024). 上腕骨外側・内側上顆炎の病態について. 関節外科, 43(8), 7-12.
【特集】超音波(エコー)で見る、あなたの身体の中:診断から最新治療まで
上腕骨内側上顆炎の診断と治療において、超音波(エコー)検査は非常に有用です。エコーは、リアルタイムで腱の状態を観察できるため、腱の肥厚、微細な断裂、石灰化の有無、さらにはドップラー機能を用いて炎症の程度(血流の増加)まで視覚的に評価できます。この詳細な情報により、診断の精度が向上するだけでなく、後述する注射治療を極めて正確かつ安全に行うための「目」として活躍します。

図:内側上顆に向かって、エコー下で注射針が施入される様子
出典:白田智彦, & 加藤有紀. (2019). 肘関節の上腕骨外側上顆炎・内側上顆炎に対するエコーガイド下多血小板血漿 (PRP)治療の臨床成績. JOSKAS, 44(1), 6-7.
あなたに合った上腕骨内側上顆炎の治療プランを見つける
治療の基本は、原因となっている動作を控え、腱を休ませる「保存療法」です。
保存療法
安静・活動制限
痛みの原因となるスポーツや作業を一時的に中断または軽減します。
装具療法
専用のバンド(テニス肘・ゴルフ肘バンド)やサポーターを手首や前腕に装着し、腱への負担を軽減します。
薬物療法
痛みが強い場合に、消炎鎮痛薬(NSAIDs)の内服や外用薬(湿布、塗り薬)を使用します。
リハビリテーション
痛みが少し落ち着いたら、ストレッチや筋力トレーニングを開始します。特に、手首を曲げる筋肉(前腕屈筋群)のストレッチや、ゆっくりと負荷をかける「伸張性収縮運動(エキセントリック運動)」が腱の修復を促す上で効果的とされています。
エコーガイド下注射
ステロイド注射
強い炎症を抑えるために行われることがありますが、短期的には効果があっても、長期的には腱をもろくするリスクが報告されており、近年は慎重に行われます。
エコーガイド下ハイドロリリースとは?:メスを使わない新しい選択肢
これは、エコーで腱や神経の状態を正確に見ながら、注射針を使って癒着している組織の間に生理食塩水などを注入し、物理的に剥がしていく手技です。上腕骨内側上顆炎では、傷んだ腱組織と周囲の膜や、近くを走る尺骨神経との癒着が痛みの原因となっていることがあります。ハイドロリリースによってこの癒着を剥がすことで、組織の滑走性が改善し、痛みの軽減が期待できます。

図:内側上顆に向かって、エコー下で注射針が施入される様子
出典:白田智彦, & 加藤有紀. (2019). 肘関節の上腕骨外側上顆炎・内側上顆炎に対するエコーガイド下多血小板血漿 (PRP)治療の臨床成績. JOSKAS, 44(1), 6-7.
手術療法
保存療法を6ヶ月以上行っても症状が改善しない、難治性の場合に検討されます。傷んで変性した腱組織を切除する手術などが行われます。
上腕骨内側上顆炎の予防、治療期間と今後の見通し
多くの場合、適切な保存療法により数週間から数ヶ月で症状は改善します。しかし、再発しやすい疾患でもあるため、予防が重要です。
- スポーツや仕事の前に、手首や指のストレッチを十分に行う。
- ゴルフのスイングフォームやラケットの握り方、工具の使い方などを見直す。
- 長時間の作業では、こまめに休憩をとり、腕を休ませる。
- 前腕の筋力をバランスよく鍛える。
つらいゴルフ肘の症状をあきらめないで、専門医にご相談ください
肘の内側のしつこい痛み、「上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)」は、日常生活に大きな影響を与えるつらい疾患です。しかし、その原因は使いすぎによる腱の損傷であり、適切な診断と治療によって改善が期待できます。
安静やストレッチなどのセルフケアで改善しない場合でも、エコーガイド下ハイドロリリースのような新しい治療の選択肢があります。痛みを我慢せず、ぜひ一度、整形外科の専門医にご相談ください。あなたの症状に合わせた最適な治療法を一緒に見つけていきましょう。
監修者情報
桃谷うすい整形外科 院長 臼井 俊方
参考文献
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