シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)
シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)
はじめに
【専門医が解説】ランニング時のすねの痛み「シンスプリント」の原因と正しい治し方
|もう再発させないために
「また、すねの内側が痛む…」
ランニングやジャンプを繰り返すスポーツに打ち込むあなたを悩ませる、ズキズキとした痛み。練習を休めば楽になるけれど、再開するとまた痛みがぶり返す。その症状、もしかしたら「シンスプリント」かもしれません。

「ただの筋肉痛だろう」「練習を休んでいる時間はない」と我慢していませんか?
シンスプリントは、放置すると症状が悪化し、最悪の場合、疲労骨折につながることもある厄介な疾患です。しかし、ご安心ください。シンスプリントは、その正体を正しく理解し、適切な治療と予防を行えば、必ず乗り越えることができます。
この記事では、シンスプリントに悩むあなたやご家族のために、整形外科の専門的な立場から、以下の点を詳しく、そして分かりやすく解説します。
- シンスプリントがなぜ起こるのか、その根本的な原因
- 自分でできる症状のチェック方法と、病院を受診すべきタイミング
- 最新の診断技術、特に「超音波(エコー)」で何がわかるのか
- 手術に頼らない効果的な治療法と、再発させないための予防策
つらい痛みをあきらめず、この記事を読んで、快適なスポーツライフを取り戻すための一歩を踏み出しましょう。
シンスプリントとは?:その正体とメカニズム
シンスプリントは、スポーツ選手、特にランナーやダンサーなどによく見られる「使いすぎ(オーバーユース)」による障害の一つです。正式な医学用語では「脛骨過労性骨膜炎(けいこつかろうせいこつまくえん)」と呼ばれます。
簡単に言うと、すねの骨(脛骨)を覆っている「骨膜」という薄い膜が、繰り返しの衝撃によって炎症を起こしている状態です。
主な原因
シンスプリントは、単一の原因ではなく、複数の要因が絡み合って発症します。
- 急激な運動量の増加:
シーズン始めや大会前に、練習量や強度を急に上げた。 - 硬い路面でのトレーニング
アスファルトなど、衝撃の強い地面でのランニング。 - 不適切なシューズ
クッション性の低い、または足に合っていない靴の使用。 - 足の形(アライメント)の問題
扁平足や回内足(土踏まずが内側に倒れ込む足)など。 - 下腿の筋力不足・柔軟性の低下
ふくらはぎの筋肉(ヒラメ筋など)が硬い、または筋力が弱い。
これらの要因により、走ったりジャンプしたりする際の着地の衝撃がうまく吸収されず、すねの骨膜に付着する筋肉(特にヒラメ筋や後脛骨筋)が骨膜を繰り返し引っ張り、微細な損傷と炎症を引き起こすのです。
もしかしてシンスプリント?:ご自身でできる症状チェックと受診の目安
以下の症状に心当たりはありませんか?
- すねの内側(くるぶしの上から膝の下あたりまで)に、ズキズキ、ジンジンとした痛みがある。
- 運動の始めに痛みが強く、身体が温まると少し楽になるが、運動後にはまた痛む。
- すねの内側の骨の上を指で押すと、激しい痛みを感じる場所がある(圧痛)。
- 症状が進行すると、歩くだけでも、あるいは安静にしていても痛むようになる。
特に、「すねの内側の下1/3あたりを指で押したときの強い痛み」は、シンスプリントの典型的なサインです。
受診の目安
痛みが2週間以上続く場合や、日に日に痛みが強くなる場合、安静にしていても痛む場合は、自己判断で放置せず、必ず整形外科を受診してください。特に、痛みが一点に集中して非常に強い場合は、疲労骨折の可能性も考えられるため、早期の正確な診断が重要です。
クリニックで行うシンスプリントの正確な診断
クリニックでは、まず問診であなたのスポーツ歴、トレーニング内容、痛みの経緯などを詳しくお伺いします。その後、医師が患部を触診し、痛みの場所や程度を確認します(理学所見)。
シンスプリントの診断で最も重要なのは、症状が似ている「脛骨の疲労骨折」との鑑別です。
X線(レントゲン)検査
骨の全体像を把握するために行いますが、初期のシンスプリントや疲労骨折では異常が見られないことがほとんどです。
MRI検査
骨や骨膜、周囲の筋肉の状態を非常に詳しく見ることができます。骨膜の炎症や、疲労骨折の初期段階である骨髄浮腫(骨の中のむくみ)を捉えることができ、確定診断に非常に有用です。
【特集】超音波(エコー)で見る、あなたの身体の中:診断から最新治療まで
当院では、シンスプリントの診断に超音波(エコー)検査を積極的に活用しています。エコー検査には、患者さんにとって多くのメリットがあります。
- リアルタイムでの観察: 痛みのある部分をその場で、動かしながら観察できます。
- 非侵襲性で安全: 放射線被ばくの心配がなく、身体への負担が全くありません。
- 詳細な評価: X線では見えない骨膜のわずかな肥厚や、炎症に伴う新生血管(もやもや血管)の増生をカラーの画像で捉えることができます。


エコーを用いることで、炎症の程度を客観的に評価し、治療方針の決定や、競技復帰のタイミングを判断するための重要な情報を得ることができます。
シンスプリントの治療法:あなたに合った治療プランを見つける
シンスプリントの治療の基本は、原因となった動作を中止し、患部を休ませること(安静)です。その上で、症状やあなたの状況に合わせて、様々な治療を組み合わせていきます。
保存療法
運動の休止・制限: 痛みがなくなるまで、ランニングなどの原因となる運動を中止します。
アイシング
運動後や痛みが強いときに、15〜20分程度、患部を氷で冷やします。
薬物療法
痛みが強い場合は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の湿布や内服薬を使用します。
物理療法
超音波治療や低周波治療などで、血流を改善し、痛みを和らげます。
リハビリテーション
ストレッチ
ふくらはぎ(ヒラメ筋、腓腹筋)や足裏の筋肉の柔軟性を高めることは、再発予防に不可欠です。
筋力トレーニング
足の指を動かす筋肉(内在筋)や、体幹の筋力を強化し、着地時の安定性を高めます。
フォームの修正
ランニングフォームを見直し、足への負担が少ない走り方を習得します。
エコーガイド下注射
痛みが非常に強い場合や、炎症が長引いている場合に、エコーで正確に患部を捉え、炎症を抑える薬や、ハイドロリリースを行います。
手術療法
数ヶ月以上にわたる保存療法で全く効果が見られない、ごく稀なケースで検討されることがありますが、一般的ではありません。
シンスプリントの治療期間と今後の見通し
治療期間は、症状の重症度によりますが、軽症であれば2〜3週間の運動制限で改善することもあります。しかし、一般的には1〜3ヶ月程度の期間を要することが多いです。
重要なのは、痛みがなくなったからといって、すぐに元の練習量に戻さないことです。専門家の指導のもと、ストレッチや筋力強化を十分に行い、段階的に運動強度を上げていくことが、再発を防ぐための鍵となります。
日常生活で気をつけること
- クッション性の高いシューズを選ぶ。
- 必要に応じて、専門家が処方したインソール(足底挿板)を使用する。
- 練習前後のウォームアップとクールダウンを徹底する。
- ふくらはぎや足裏のセルフマッサージやストレッチを習慣にする。
つらいシンスプリントの症状をあきらめないで、専門医にご相談ください
ランニング時のすねの痛み「シンスプリント」は、決して「気合で乗り越える」べきものではありません。それは、あなたの身体が発している重要なサインです。
痛みを我慢して練習を続けると、症状が悪化し、大好きなスポーツから長期間離れなければならなくなる可能性もあります。
幸い、シンスプリントは、正確な診断と適切な治療、そして計画的なリハビリテーションによって、その多くが改善します。つらい痛みに一人で悩まず、ぜひ一度、整形外科の専門医にご相談ください。私たちは、あなたの痛みの原因を突き止め、一日も早く競技に復帰できるよう、全力でサポートします。
監修者情報
監修:桃谷うすい整形外科 院長 臼井 俊方
参考文献
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Winters, Marinus, Martin Eskes, Adam Weir, et al. 2013. “Treatment of Medial Tibial Stress Syndrome: A Systematic Review.” *Sports Medicine* 43 (12): 1315–33. https://doi.org/10.1007/s40279-013-0087-0.